第9話 先輩
「水無瀬先生、そろそろ起きられますか?」
「もうすぐお昼ですよ。体調はいかがです?何か食べられそうですか?」
「だいぶよくなりました。ありがとうございます」
「じゃあ、一緒にお昼食べませんか?私、ずっと水無瀬先生とお話したいって思ってたんですよ」
「私とですか?」
思い当たる節がなくて、私は首を傾げる。
「私は水無瀬先生の大学の先輩なんですよ。覚えてないかもしれませんが、しつこく男の人に絡まれている私を助けてくれたんです。お礼もまともに言えなくて、ここで再会してびっくりしました」
「……覚えてなくてすみません」
「いえいえ。水無瀬先生は人気者でしたから、学年の違う私のことを覚えてなくても仕方ありません。せっかく同じ職場になったのになかなか話しかけるのに勇気がいりました。あの、不躾なことを聞いてもいいですか?」
「はい。大丈夫ですよ」
何を聞かれるか私はドキドキする。
「水無瀬先生にはもう“番”はおられますか?」
その言葉に結の顔が浮かぶ。だが、彼女とそういう関係になるつもりはないため、ふるふると首を横に振る。
「私、ずっと水無瀬先生が好きです。よかったら私と付き合ってくれませんか?」
突然の告白に私は戸惑ってしまう。
「いきなりすぎてびっくりしましたよね。ごめんなさい。でも、この気持ちに嘘偽りはありません。返事はゆっくりでいいので、考えてみてください」
「はい。わかりました。お昼はここで食べますか?」
八尋は頷く。
「では、お弁当持って来ますね。すぐに戻ってきますので、少しお待ちください」
私は保健室を後にした。
☆
「……どこ行ってたの?もうお昼だよ」
職員室の前で結が待っていた。
「保健室に行ってたの。熱が治まらなかったから」
「どうやって治めたの?自分で?それか他の誰かに?」
「どちらも違うわ。薬を飲んで、寝たの。今は、八尋先生にご飯誘われたからお弁当を取りに来たの」
「八尋先生と仲良かったっけ?」
「仲良くなりたいって言われたわ」
「……先生、モテすぎ」
ぐいぐいと結ちゃんが私の腕を引いていく。
「ちょっと、待って!八尋先生が待ってるんだけど」
「聞いた」
「なら離して。彼方さんは乙葉さんが待ってるんじゃないの?」
「……じゃあ、ここでキスして。そうしたら離してあげる」
「丸見えじゃない?」
「大丈夫。先生の髪長いから、ちゃんと隠れるよ」
断ればいいのに断れなかった。この前の快感が脳裏に浮かぶ。
「……ん……」
学校で、しかも相手は生徒という禁忌に私はどうしても興奮してしまう。
舌が侵入してきて、快感は増す。
お腹に手が伸びてきて、私は慌てて距離を置いた。
「残念。じゃあね、千夏 。放課後、写真部の見学に行くね」
彼女は去っていく。
私に熱だけを残して。
「……おまたせしてすみません」
「いえいえ。あれ?先生、また顔が赤くなってますよ?」
そっと八尋先生が私の頬に触れる。
「私が楽にしてあげますよ」
八尋先生は入口に鍵をかけ、私をベッドへと誘った。
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