第8話 敵対心

「あーぁ。逃げられちゃったか。でも、あの反応は“アリ”ってことだよね?」


 ニッとわたしは笑う。


「教師を狙うなら、優等生が1番だよね?」


 それにしても気持ちが良いキスだったなと、まだ甘い余韻が残る唇にそっと触れる。

 それをぶち壊しにするような声がした。


「こら、フェロモンを撒き散らすのはやめなさい。薬は持っていないのか?」


 この学校にはαの教師がふたりいる。

 ひとりは目下片想い中の千夏だ。

 もうひとりは声をかけてきた花染咲良だ。

 花染先生はいかにもαですと言っているような男だった。クラスの女子たちがかっこいいと騒いでいた。本来ならΩである自分も彼女たちと同じように、いや、それ以上に反応していたのだろう。


「薬、ちゃんありますよ。いきなり叱るのはどうかと思いますけど。Ω差別はやめてください」

「彼方さん、だったかな?頭ごなしに否定してすまななかった」


 花染先生が頭を下げる。

 もっとαだから傲慢かと思っていたが、彼はそうでもないようだ。いや、曲がりなりにも学年トップで入学していた賜物か。

 学校は成績至上主義だ。だから、Ωでも勉強ができればうまくやっていけるのだ。


「水無瀬先生がどこに行ったかわかりますか?」

「お手洗いに。あぁ、でもなかなか帰ってこないと思うので何かご用でしたら伝えますよ?」

「……何かしたのか?」

「さぁ。先生αだからわたしに欲情しちゃったのかもしれませんね」

「……この猫かぶりが」

「何とでも言ってください。何をしたかバラしたら困るのは先生のほうですから」


 花染先生はわたしを睨みつける。


「あなたに千夏先生は渡しませんよ?だってわたしと千夏先生は“運命の番”ですから」


 ☆


 乱れた息を整える。

 ようやく熱は治まり、私はふうと息をついた。


(どうしよう。キス、全然嫌じゃなかった。ううん、それどころか気持ち良すぎてもっとしたかったくらい。相手は生徒で私は教師。手を出しちゃだめなのに)


 正確には手を出したのは彼方さんだが、それでも責任は私にある。


「……とりあえず戻ろう。次、授業がなくてよかった。それか保健室行って休ませて貰おうかな」


 ふらふらと私は保健室へと歩きだす。


「あら、水無瀬先生どうされたんですか?顔、真っ赤ですよ?」

「ちょっとΩの子のフェロモンにあてられてしまって……」

「水無瀬先生はαだからそれはきついですね。薬がありますが飲みますか?」

「すみません。いただきます。少しだけベッドお借りしてもいいですか?」

「どうぞ。体調不良に教師も生徒もありませんからね」

「ありがとうございます」


 私はもらった薬を飲み、横になる。



「……次、どんな顔して会えばいいんだろ。困ったなぁ」



 キスをして気づいてしまった。

 私も彼女のことが好きだ、と。



「……私も好きだよ、[[rb:結 > ゆい]]ちゃん」

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