第7話 アプローチ

(心配してたけど、大丈夫みたいね。友達ができたみたいで良かった)


 私はいくら本人に半ば無理矢理だが了承をもらったとはいえ、彼方さんがΩであることをクラスに伝えたことの影響を気にしていた。

 最初はみんなが話しかけていたが、彼女の反応は薄く、結局人の輪から外れてしまっていたのだ。


(乙葉さん、相当、勇気出したんだろうな)


 表立っては言えないが、彼女は親友を自殺で亡くしている。理由はΩであることに対するイジメだった。



「先生、放課後、時間空いてますか?」

「こら、ノックしながら扉を開けないの」

「大丈夫ですよ。先生がひとりなの分かって来たので」

「乙葉さんは?」

「莉乃は部活の見学行くので、わたしはフリーなんですよ……距離を縮めたいから敬語やめてもいいですか?」

「そういうのは良くないです。贔屓になりますから」

「贔屓してって言ってるんだけどな」

「部活はやらないの?」

「やらない。人とあまり関わりたくないし。あ、でも先生が顧問の部活になら入っていいかも。あー、でも先生の部活って担当科目から考えるとマニアックそうだなーでも、白衣萌えるよなぁ」

「いろいろ失礼ね。それに私の担当は化学だけど、顧問をしてるのは写真部よ?」

「写真?」

「人数は少ないけど、みんな良い写真を撮るのよ?」

「……先生も写真撮るの?」

「撮るわよ。休みの日は私が車を出して、山とか川とかに写真を撮りに行くのよ」

「なら、部活見学行く。先生の撮った写真見てみたい」

「じゃあ、決まりね」


 笑う私に彼方さんは顔を赤くする。


「うー、先生が可愛すぎる。もう無理。大好き。番 になって」

「いろいろ段階を飛び越えてるわね」

「じゃあ、先生はわたしに何も感じないの?」

「う、それは……いい匂いだなぁと思うし、触れたいなと思うけれど、私が教師で彼方さんは生徒だから駄目なのよ。それがわからないほどあなたはバカではないでしょう?」

「そんな言い方ずるいよ、先生。じゃあ、わたしが卒業するまで待てば番になってくれるの?」


 私は彼女の言葉に首を横に振る。


「今から出会いはいっぱいあるはずよ。そこには素敵な出会いがあるかもしれません。心変わりするかもしれないから、約束はしません。私はあなたの枷にはなりたくないのよ」


 理解はできるけれど、納得はできないという顔を彼方さんはしている。


「……理屈が通用しないのはわかった。なら、理性を溶かすほど、わたしが千夏を愛するから」


 私に彼女の顔が近づいてきて、キスをされる。


「ーーっ」


 より一層濃くなるフェロモンに私は化学準備室からトイレに逃げ込んだ。身体が疼いて、熱い。



“運命の番”とのキスがこんなにも気持ちいいなんて知らなかった。

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