第6話 友達

彼方おちかたさん、やっぱりΩって大変?」


 学校が始まり数日が経った。徐々にグループができつつある。

 授業が終わり、後ろの席の乙葉莉乃おとわりのがわたしに声をかけてきた。


「あ、話したくないなら無理しないでいいよ。先生の言うとおり、ボクはΩのことを何も知らないなぁと思って、知りたいって思ったんだ」

「別にそんなにβと変わらないよ。先生が言わなければわたしはβだとみんな思ったんじゃないかな?」


 全く面倒くさいことをしてくれたものだ。

 先生が余計なことを言ってくれたおかげで、こうやって声をかけてくる子が多いこと多いこと。

 一応笑顔で対応しているが、そこから話が広がることはなく、結局距離を置かれている。

 まぁ、有り体に言ってしまえば友達ができていないわけである。


「ごめんね。Ωだからって珍しがって話しかけられるのは嫌だよね」


 けれど、彼女の反応は他と少し違っていた。


「別に慣れてるし、気にしてないよ?」

「ううん。慣れちゃダメだ。言い直すね。ボクと友達になってくれないかな?」


 その言葉にわたしはキョトンとする。


「……見たんだ。先生を庇ってたとこ。格好良かった。そうなりたいって思ったし、仲良くなりたいって思ったんだ」

「あ、ありがとう。見られてたと思うと恥ずかしいな」

「どう、かな?」

「教えてよ、乙葉さんのこと」

「ボクのこと?」

「そうだよ。友達になろ?」

「いいの?」

「もちろん」


 わたしが笑うと彼女も笑った。


 ☆


『ーーよかった、友達ができて。あたし、心配してたんだよ?』

『……友達いたことなかったから、新鮮だよ』

『え、今まで友達いなかったの!?』

『ちょっと、驚きすぎ。別に嫌われてたわけじゃないよ?友達じゃなくて恋愛対象にされちゃうんだよ』

『あー、わかる。結ちゃん、小さくてかわいいもん』

『小さいって言わないで』

『ごめんごめん』


 電話の相手は美南だった。

 あの事件の後から、ふたりは仲良くなっていた。


『で、例の先生とはどうなのよ?』

『特に進展はないよ。先生、美南さんと同い年なんだけどさ、10歳年下って恋愛対象になる?』

『あー、意識してなかったけど、言われてみたら大人と子どもだよね。おまけに教師と生徒だもん。ちなみにあたしは恋愛対象になるよ。結ちゃんのこと好きだし』

『美南さんって一途だよね』

『一途でも、誰かさんは振り向いてくれないからなぁ。それどころか恋愛相談されてるし』

『それは……ごめん』

『謝らないでいいよ。あたしは大丈夫だし。振られても勝手に好きでいるだけだから。でも、その先生が“運命の番”なんでしょ?それなら両想いになれるんじゃないの?』

『よくわかんない』

『まぁ、焦ることはないんじゃない?少なくとも1年間は担任なんだから』


 そう彼女はわたしを慰めてくれる。


『ん?あたしと同い年って言ったよね?名前聞いてもいい?』

『“水無瀬千夏 ”だよ』

『千夏!?世間は狭いね』

『知り合いだった?』

『知り合いどころか親友よ』

『……すごいね』

『本当にね。びっくりしたよ。でも、安心した。相手が千夏なら、あたしは諦められる。結ちゃんも千夏も大好きだからね』


 電話越しにすすり泣く声が聞こえてくる。


『……好きだよ、美南さん』

『あたしも好きだよ、結ちゃん。だからね、頑張ってね』


 美南さんのその言葉にわたしはありがとうと答えた。







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