第4話 自己紹介

「みなさん、入学式お疲れ様でした。改めて入学おめでとうございます。私はこのクラスの担任の水無瀬千夏みなせちなつです。初の担任で至らないところや未熟な部分もあると思いますがよろしくお願いします」


 私は緊張しながら自己紹介をしていた。


「自己紹介の前にひとつだけみなさんに話しておきたいことがあります。このクラスにはΩの子がひとりいます」


 その言葉に教室がざわついた。



 ーー彼方さん、クラスのみんなにΩだと伝えてもかまいませんか?

 ーーなんでわざわざ言うんですか?言わなきゃバレないので、迷惑なんですけど。

 ーーみんなにΩのことを理解してほしいからです。彼方さんを利用してしまうようでごめんなさい。


 そう言われると結は強く言えなくなる。


 ーー何かあったときちゃんと責任をとってくれますか?

 ーー何もないようにあらかじめ気をつけていきます。

 ーー……先生のこと、信じていいんですか?


 ぐいと頷く私を彼方さんが腕を引き、彼女との距離が近くなる。


 ーー今日、甘い匂いはしますか?

 ーーしています。

 ーーこれは香水じゃありません。Ωのフェロモンです。先生だけが気づきました。それがどういうことかわかりますか?

 ーーやはり、“運命の番”ですかね。


 しっかりと彼方さんは私の言葉に頷いた。


 ーー先生をわたしの虜にしてみせますから、覚悟しておいてくださいね?



「彼方結さんがΩ性です。発情期ヒートは上手く薬でコントロールできていて、βと変わらない生活を送れているそうです」

「なら、私達と変わらない感じですか?」

「そうですね。ただ具合を悪くすると、βも反応するほどフェロモンが出てしまうそうです」

「そういうときはどうしたらいいですか?」

「私か、近くにいる教師に知らせてください」


 生徒たちはしっかりと頷いていた。


「特別扱いはしないで、仲良くしてあげてください。それでは出席番号順に自己紹介をしていきましょうか」


 HRは順調に進んでいき、私はホッと胸を撫で下ろした。


 ☆


「ねぇ、先生。先生は絶対αでしょ?」

「αですよ」

「ほら、やっぱり!めっちゃ美人だから絶対αだよって話してたんだ」

「いいなぁ。αってなんでもできて人生楽そう〜」


 その言葉にまたかと思ってしまう。

 慣れたとはいえ、言われたい言葉ではない。


「αじゃなくても、勉強はできるよ。わたしはΩだけど、学年1位で新入生挨拶をしたよ。αだから、Ωだからってひとくくりにするのはよくないよ」


 彼方さんの言葉を笑いながら彼女たちは去っていく。


「……ありがとう、彼方さん」

「別に。腹が立っただけたから」


 そう告げて、彼女は帰っていく。


「……庇ってくれちゃった」


 それがめちゃくちゃ嬉しくて、私の顔は赤くなっていた。



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