第3話 αとΩ

「ーーほんとーっにβは勝手なんですよっ!!αは出来て当たり前。出来なかったら、αなのになんでできないのって?知らないことまで出来るわけないじゃないですかっ!?」


 ドンと私はジョッキを机に叩きつける。


「僕は水無瀬先生が入ってきてくれて嬉しかったですよ。僕以外αいなかったですから。あ、わかってくれる人がやっと来たって。水無瀬先生は最年少だから仕事を押し付けられて、無理だと思いながらもそれでもこなしちゃって、結果的にまた仕事を押し付けられるっていう負のループですよね」

「……だって、出来ないと思われるの癪じゃないですか。あ、青りんごサワー追加でお願いします」

「意外と水無瀬先生は負けず嫌いですよね」


 クスクスと花染先生は笑う。


「そう、ですかね?あまり自覚はないんですが」

「素敵だと思いますよ。僕はそこそこのところで断りますから」

「花染先生のクラスにはΩの子はいますか?」

「いや、いないですね。かわりにαの子がいます。αの子も配慮が必要です。やはりαの子は何でも出来てしまうことが多くて、βの子たちが妬むんですよね。で、下手に僕が介入すると僕はαだからα贔屓するんだろって言われちゃいました。一回拗れに拗れて、そのαの子が登校拒否になっちゃって大変でした。でも、その様子をみてβの子たちは、αだからって特別じゃないと理解してくれて、なんとかうまくいったんですよ」

「彼方さんに特別扱いするなと言われました。Ωだけど発情期ヒートはちゃんとコントロール出来るから、と。ただ、αのことが嫌いみたいで、私はどう接していけばいいのか悩んでいます。私はαじゃないって子どもみたいに嘘もついちゃって……」


 思い出したら涙が滲んでくる。


「もっと簡単に考えてみましょう。たくさんの人間が3種類に分かれるだけですよ。それだけで相手と仲良くなれるかなれないかはわからないと思いませんか?」

「……確かに」

「お互いに知っていったらいいんですよ。ただ、僕達は気をつけなければなりません。Ωのフェロモンに反応するのはαです。少数のαの生徒たちも気をつけなければなりません」

「……私は無知です。身の回りにΩがいたことがなかったから、知識としてはあってもどこか無関係でした。でも、今はすぐ近くにいます。泣いてる場合じゃないですよね。お酒に逃げてる場合じゃないですよね。私、ちゃんと彼方さんと向かい合わないといけませんよね。花染先生、気づかせてくれてありがとうございます」


 私が笑うと花染先生は顔を赤くする。


「私、頑張りますね!今日はありがとうございました」


 私はお金を置いて席を立つ。


「また学校で!」





「……いきなり笑うなんてずるいですよ」


 花染の心臓は年甲斐もなく早鐘を打っていた。



「ーー好きです、水無瀬先生。“運命の番”なんかに絶対に負けません」



 ☆


「ーーん、できた。高校生ならこんなもんでしょ」

「あまりかわらなくない?」

「それでいいのよ。結は元がかわいいからこれで充分」


 それでも結は鏡とにらめっこしている。


「恋してるねー、妹よ」

「そんなんじゃないよ」

「時には認めることも大事だよ?」

「……だって、マイナススタートなんだもん」

「大丈夫大丈夫。ずっとケンカしないカップルなんかいないんだから……って、ごめん、電話だ。もしもし?あー、ごめん。妹に化粧教えてあげてたんだ。本当だって。浮気なんかじゃないってば。私には六花りっかだけだから」



 邪魔をしちゃいけないなと、そっと結は実の部屋から退散した。



 ん、と下着に指を潜り込ませて、ゆっくり動かす。妄想の相手はもちろん水無瀬だった。


 先生はとても綺麗だった。

 ひと目で心を掴まれた。

 でも、先生は普通でそのことに無性に腹が立った。



「ーー先生もわたしだけを見てくれたらいいのに」



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