第2話 お酒と夜道

「はぁ……なんで私、嘘ついちゃったんだろ。そりゃ信用もされないよね」


 私はもう何本目かわからないチューハイを勢いよく飲み干した。

 私は今、酒に溺れている。


「どうやって付き合っていったらいいんだろ?もう、私のバカ」


 みんなαは恵まれていると言うけれどそんなことはない。

 私はβになりたかった。

“少数”じゃなくて“多数”でいたかった。きっとそっちのほうが生きやすいと思うから。


 酔って気を紛らわせたいのに、そういうときに限ってなかなか酔えなかったりする。もう最悪だと言うしかない。


「あー……、お酒もうなくなっちゃった。仕方ない。コンビニに買いに行くか」


 時間も遅いし、部屋着に上着を羽織ればいいやと外に出る。


「うー……やっぱりまだ夜は寒いなぁ」


 風が冷たく、身体の熱を奪っていく。


「水無瀬先生?」

「え?花染はなぞめ先生?」


 私が振り向いた先には先輩教師である花染咲良がいた。


(やばい。完全に油断してたからすっぴんだし、部屋着だよ。もういろいろありすぎて泣きそう)


 だらだらと私は冷や汗をかいていた。


「夜に女性のひとり歩きは感心しませんね」

「近所なんで大丈夫ですよ!」

「大丈夫じゃないですよ。どこまで行くんです?」

「あそこのコンビニまで」

「お供しますよ。家まで送ります」

「悪いですよ。本当に大丈夫ですから!」

「……はぁ。あまり言いたくはないですが、水無瀬先生は自己評価が低すぎます。感じませんか?さっきから男の人が先生を見ていますよ」


 ぎゅっと私の手を花染先生が握る。


「男避けです。さ、コンビニに行きましょうか」


 握られた手が熱い。今頃になって酒が回ってきたのだろうか。


「で、何を買うんです?」

「……お酒を、少々」

「ひょっとして、飲んでました?」

「……はい。ちょっと酔いたい気分だったので」

「なら、着替えて一緒に飲みに行きませんか?愚痴、聞きますよ?彼方さんのことでしょう?」


 花染先生の優しさに涙がぼろぼろと溢れ出す。


「……僕が女の子を泣かせてる、悪い男みたいですね」

「いえ、すみません。涙、止まらなくて……」

「αってことを隠したい気持ち、わかりますよ。αってだけで何でも出来て、努力してないと思われますよね。そんなことないのに、ね」


 頭をぽんほんと優しく撫でられる。


「……花染先生。彼方さんから香水の匂いはしましたか?」

「いえ。それってひょっとして“運命の番 ”なんじゃないですか?」

「……やっぱりそう思いますよね」

「妬けるなぁ。だからΩって嫌いです」

「どういう意味です?」

「そのままの意味です。じゃあ、外で着替え待ってますね」

「外は寒いから中に入ってください」

「ダメですよ。簡単に一人暮らしの部屋に男を上げちゃ」

「でも……」

「大丈夫ですから」

「すみません。急いで着替えますね」


 私は慌てて服を選ぶ。



「俺は、Ωなんかに負けねぇよ?」


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