エンディング 星空を見上げた少女達
*
時刻は23時40分。20年前までなら夜の景色が街々を彩るはずだったが、今現在は真昼の太陽がずうっと空を照らし続けている。しかしそんなことは大地の下にある地下には一切関係の無い話だ。
そんな地下深くの一室に忍び寄る影が一つ。
「…………」
影の正体は人物はイブキ。
消灯時間となり暗くなった収容区画を誰にも悟らせないようにしながらゆっくりとその場所へ忍び込んだ。
「すぅ すぅ」
「…………」
彼女はベッドの上でで気持ち良さそうに寝息を立てているハトを見下ろしていた。
見下ろす彼女の右手には芒炎鏡が握られており暗闇の中で淡く光っていた。
そして手に持った芒炎鏡を眠っているハトの頭に突き付ける。
あとは引き鉄を引くだけ そうすれば彼女の復讐が達成される。死んだ家族の仇を取れる。
しかし、彼女は一向に引き鉄を引かない。芒炎鏡を突き付けながら無言で見下ろすだけだ。
「……」
引け 引けない
撃て 撃てない
殺せ 殺せない
彼女の背叛する感情が争い合う。
思い出せコイツに殺された者たちの無念を でもそれは私のエゴだ
コイツはハトを殺したんだぞ 違うハトちゃんはまだ生きている
「ハァ....ハァ....」
次第に荒くなる呼吸、拳銃を持つ手がカタカタと震えている。
撃てば全て終わるんだ 撃ったからと言って終わるわけではない
お前の手は既に汚れきっている何を今更躊躇う 汚れているとしてもハトちゃんを殺したくない
「あっ.....」
震える手から芒炎鏡がハトの眠るベッドにボトリと落ちた。
急いで拾わないと そう慌てた様子でベッドに手を伸ばすが既に手遅れだった。
「うーん……」
拳銃がベッドに落ちた衝撃で彼女が目を覚ましてしまったのだ。彼女は眠たそうに瞼を擦りながら首を横に向けると。
「あ、おねえちゃんだ!」
『イヒヒ イーブちゃん!』
ハトと全く同じ あの無邪気な笑みをイブキに見せたのだった。
「あ……あぁ.……!」
ここが限界だった 溢れた感情を抑えきれなくなりイブキは眼に涙が浮かびポロポロと泣いてしまう。
その感情の名前は親愛。大切な人を愛する気持ち。
ハトの心はまだ死んで無かったのだ。この精神を寄生され侵食された状態でも一瞬だけその奥に彼女の心が見えたのだ。
「お姉ちゃん大丈夫? お腹が痛いの?」
心配そうに見つめるハトの姿をしたソレを彼女はぎゅうっと抱き寄せた。
「わっ お姉ちゃんどうしたの!?」
「違う....違うのよ....」
抱きながら彼女は心の中で懺悔した 大切な親友を殺すところだったと。
「ごめんなさい....ごめんなさい....」
もう離さないと言わんばかりに涙を流しながら強く抱きしめた。
そんな彼女の様子を見てソレは。
「うん、大丈夫だよ …………イブちゃん」
母親のような慈愛の笑みを浮かべながら抱きしめ返す。
その光景はまるでおとぎ話、星空の下で愛を誓い合う王子とお姫様のようだった。
これからの彼女達には様々な艱難辛苦が待ち受けているだろう。しかし、彼女達の力はそれらを跳ね返せれはずだ。
今は見えない夜を取り戻す。星空はいつまでも少女達を見守り続けている。
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ここまで見ていただきありがとうございました。
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