第16話 親友だった女の子
*
収容区画の奥、『Zー9』の部屋の前にイブキは立っていた。その表情は緊張と不安でいっぱいだ。
「……よし」
この感情の理由を、そしてあの金色の十芒星という存在を知るために再びこの扉を開けた。
「あ、おねえちゃん こんにちは」
扉を開けると、無垢な子供の声が彼女を出迎えた。
ベッドで眠るハト、いや金色の十芒星はつい前まで死闘を繰り広げた相手を前に笑顔を向けていた。
「うん こんにちは。さっきはいきなり出てしまって悪かった」
「べつにいーよ!」
まるで世の中の穢れなんて無いと言うような眩しい笑みに鳥肌が立つ。私は今まで何と戦っていたのか。
交錯する感情、しかし知らなければならない。目の前の存在を。
そのためにまずは会話をしなければ。
「ええと、私はイブキって言うの。貴方の名前はなんて言うの?」
「名前? うーん、わかんない」
「わからない?」
「うん 気づいたらここにいたの。だから何もわからないんだ」
「そうなの」
これは騙すための演技なのか。しかしその純粋な瞳に嘘は感じられない。
わからない、わからない。彼女という存在が。今心の中で渦巻いているこの感情の名前が。
「あ! でも一個だけわかることがあるよ!」
「それは?」
「おうた! なんかね、夢の中でとっても綺麗な暗い森の中でね、妖精さんたちと一緒に歌ってた!」
「へ、へえそうなんだ。どんな歌か教えてくれるかな?」
「いいよ! ラララ〜ラ〜ラ♪ ラララ〜ラ〜ラ♪」
「…………!」
髪を揺らしながら嬉しそうに彼女は歌う。
それはあの時、金色の十芒星が歌っていた『小さな世界』を謳った歌。みんな笑顔で手を繋ぐ平和な世界を願う歌をハトの姿をいたこの存在は確かに歌っていた。
確信する。目の前のコイツは『
しかし泥のようにこびりつくこの感情は何なんだ。同情か、共感か、それとも……憐みなのか。
「ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜ラ♪ おねえちゃん、どうだった?」
そうして歌は終わった。
歌い終わった彼女はやりきったような表情でイブキを見つまる。まるで褒めて欲しいと言わんばかりに。
「うん とても上手だったよ」
「やったぁ! おねえちゃん大好き!」
ベッドの上で跳ねて喜ぶその様子にイブキは唇の裏を噛みながら笑っていた。
その目頭に涙を含ませながら。
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