第14話 収容区画にて
*
静寂、閑散、不気味。埃一つ無い綺麗なこの通路はとても静かなのにどこか歪な雰囲気が漂う場所だった。
ここは天門台ニホン支部の地下にある収容区画。数多のホシのサンプルを保管している大切な場所だ。
そんな人の気配が全く無い地下の通路をイブキとエレンは会話することなく無言で歩き続けている。そして『Zー9』と書かれた扉の前で二人は立ち止まった。
そこは収容区画の最奥。天門台の一番大事な物を厳重に収容しているであろう場所。
「この扉の先にハトが居る。準備はいいか?」
「……はい」
エレンがゆっくりと鉄扉を開く。キイという扉の軋む音が嫌に大きく感じた。
部屋の中は病院の個室のような場所、中には様々な計機が置かれており時折ピッという機械音が聞こえてくる。部屋の中心にはベッドあり、そこから小さな寝息が聞こえて来た。
「ハトちゃん……」
顔、桜色の髪の毛、その姿は間違いなくイブキの親友であるハトだった。
真っ青になっていた肌は綺麗なピンク色に戻り、身体の傷も一切無い。まさに健康そのものだ。
穏やかに眠るその顔はまるで生まれたばかりの無垢な赤子のようであり、愛おしさすら感じる。
「生きてて良かった、本当に良かったよ」
そう言ってイブキがハトの頬に触れると温かい感触が手に伝わり、ハトが生きていることを再認識する。
生きてる。生きてる。生きてる。
大切な親友の生の感触に思わず目尻に涙が浮かび、心の底からの安堵の声が漏れ出た。
その時、ふとベッドから小さなうめき声が聞こえてきた。
「う、うん……」
「何?」
寝ている彼女がゆっくりと瞼を開けた。
まだ目覚めたばかりの彼女は朧げな眼差しでイブキを見つめている。
そして右手をイブキの方へ伸ばしながら
「おねえちゃん……だあれ?」
「え…………?」
まるで小さな子供のような喋り方でイブキに問いた。
鈍器で頭を殴られたような衝撃が響く。
彼女に一体何が起こったのか。どうして私のことがわからないのか。
どういうことだ どういうことだ
冷や汗が止まらない。彼女を見つめる眼が左右に泳いでしまう。
そんな混乱しているイブキの手をエレンは乱暴に掴んで引っ張って行く。
「出るぞ。この状況は想定外だ」
「待ってください! 一体何が…………」
そして部屋を後にした二人は来た道を足早に去っていき、地上へのエレベーターに乗った。
そこでようやくエレンはイブキの手を離す。
「あの、エレン支部長 ハトはなんで……」
「ここでは話せない、詳細は私の部屋で話す。あぁ、研究課か。被験体が目を覚ました。至急鎮静剤の投与を…………」
そう気丈に答えるエレンも眉を顰め冷や汗を垂らしながらどこかへ連絡をしていた。
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