第12話 鼓動と夢

    *


 大きな爆発がこの劇場を襲った。


 その衝撃は劇場の屋根を吹き飛ばし、舞台の周辺を更地へ変えた。


 吹き抜けた天井から差す太陽の光。その光を肌に感じてイブキは目を覚ました。


「あれ? 私達は確か金色のホシと戦ってて……」


 頭に手を当てながら朧げな眼で辺りを見渡す。


 妖精も、ホシも、舞台も。更地と化した劇場には瓦礫ぐらいしか残っていなかった。


 しかし、爆発の影響で黒く焦げた地面、爆心地の上で横になっている親友の姿を彼女は眼にする。


「ハトちゃん!」


 戦闘の影響で痛んだ身体を引きずらせながら、彼女は大切な親友の下に駆け寄り、倒れている彼女の身体を抱き起こして顔を見つめた。


 その顔色は薄くなり始めていた。桜色の髪が揺れるたびに顔色は徐々に白くなり手に感じる鼓動も弱まり始めていた。


「ハトちゃん、起きてよ…………」


 涙ぐんだ声で何度呼びかけようともハトは答えない。ただただゆっくりと死に向かっている。


 またホシに大事な物を奪われてしまう。胸の内の後悔の念が大きくなり、今にも爆発しそうだ。


 嫌だ。嫌だ。嫌だ。


 何度も胸中でを否定しようとしても弱まる鼓動を止めることができない。


「こちらチームA チームEの三人を発見しました。これより回収し帰投します」


 そう今にも声を張り上げようとした時。白い戦闘服に身を包んだ三人の女性がこの劇場へ雪崩れ込んで来た。


 それはこの作戦で別の区域を担当していた別のチームのメンバー。その内の一人がイブキの方へ近づき手を差し出しながらこう言った。


「チームAのリーダー ヒバリです どうやら激しい戦闘があったようですね。治療のために帰投しましょう」

「……やく」

「どうしましたか?」

「早くハトちゃんの治療をして!!」


 イブキは目を見開きながらヒバリと名乗った女性に詰め寄る。が、ここが限界だった。


 二体の九芒星に金色の十芒星との連戦を繰り広げた彼女達の身体は既に悲鳴を上げていた。未だに意識が戻らないメイアがその証拠だ。


 ヒステリックな程の大声を上げたイブキはプッツリと切れた糸のように倒れてしまう。


「…………早く回収して治療しましょう まだ周辺に強力なホシの反応が残っていますので」


 意識を失う直前、彼女が耳にしたのはそんな内容の会話だった。




    *


 夢を見ていた。


 それはどこにでもいる二人の小さな女の子が公園の砂場で遊んでいる夢だ。


 桜色の髪の女の子が砂を固めて作ったおにぎりを笑顔で黒髪の女の子に手渡した。黒髪の女の子はおにぎりを笑顔で受け取り美味しそうにパクパクと食べるふりをする。


 桜色の髪の女の子はとても嬉しそうにしながらまた砂でおにぎりを作る。そして黒髪の女の子に向けてこう言ったのだ。


「わたし、いつかイブちゃんとけっこんする!」


 その言葉に黒髪の女の子は少し驚くと徐々に困ったような顔をする。


 親友からの純粋な願い。しかし周りの子供より少しだけませている黒髪の女の子はその願いが叶わないことを知っていた。


 だけどそれでも、その純粋な願いを否定するのもはばかられた彼女は


「うん、いつかね」


 そう、曖昧な返答をするしかなかった。


 その返答を聞いて喜ぶ桜色の髪の女の子を見て、黒髪の女の子はチクリと少しだけ心が痛んだのだった。

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