第11話 金色の十芒星③
*
「……ブちゃん! イブちゃん…………!」
耳に触れる呼びかける声を聞き彼女は目を覚ました。
どうやら舞台から落ちて少しだけ気絶していたようだ。
ゆっくりと立ち上がり辺りを見回すと劇場の中央で倒れ伏す金色の十芒星を見つけた。
ホシをぼーっと見つめていると唐突に誰かに抱き付かれた。
「イブちゃん!」
「ハトちゃん……」
それは彼女の大切な親友だった。
生きていたイブキを見てハトは泣きながら笑っていた。
「心配したんだよ 傷だらけだったんだから!」
「まだ治療中だから身体は動かさないでねぇ」
その傍らにいるメイアは
「でもこれであの金色の十芒星が倒せたんだネ」
「そ、そうだね」
ハトの嬉しそうな言葉に同意しながら劇場の中央に倒れ伏す金色の十芒星を見る。
そしてこう思う、呆気ないと。
渾身の一撃を浴びせたのは事実だ。しかしあの十芒星という上位の個体がここまで呆気なく倒せてしまっても良いのか。
脳裏に過ぎる一抹の不安 その答えはすぐに明らかになった。
『Ah…………ah…………』
ホシが立ち上がった。その身体はすでにボロボロと崩れており、崩壊するのも時間の問題だ。
しかし何が彼女を突き動かすのか。金色の十芒星は再び暗い劇場の夜空へ昇る。
『
それは小さな呟きだった。
『
同時に金色の十芒星の身体が光を帯びる。
淡く、小さな輝き。しかしそのエネルギーは先程とは比べ物にならない。
『
「危ない!」
そしてそのエネルギーはレーザーとなり彼女達に迫るが、幸いなことにメイアが素早くバリアを構築してくれたおかげで被弾は免れた。
しかし凄まじい勢いで放たれる無数のレーザーは叫び声を上げるホシの意志とは関係無く劇場全体に撒き散らし、至るところに大きな穴を作る。
「このままじゃ劇場が崩れちゃう!」
「早く止めないと」
この危機にイブキとハトは
そうしている内に、劇場の天井からパラパラと破片が落ちて来た。
「当たってよ…………」
このどうしようもない絶対絶命な状況にイブキから諦めの声が漏れ出てしまう。
もう無理なのか。今にも崩れそうな劇場の舞台の上で立ち尽くそうとした時、ふらっとイブキの目の前に桜色の景色が揺れた。
「わたしがなんとかするよ」
「ハトちゃん……?」
「わたしがアイツのところまで近づいて倒すよ。至近距離で撃ち込めばさすがのアイツでも倒れると思う」
「ダメ! 無茶だよ!」
「大丈夫大丈夫、わたしも結構やれるんだよ」
ハトを止めようと手を伸ばすが届かない。
彼女は一度だけイブキを見て笑顔を見せると、泣きじゃくる金色のホシの方を向いてクラウチングスタートの姿勢を取ると。
「それじゃあネ。イブちゃん」
そう言って降りしきるレーザーの中に向かって走り始めた。
「ハトちゃん、待って!」
「ダメぇ! 無闇に突っ込んだら危ないわぁ!」
メイアに抑えられたイブキは死地に向かう親友をただ眺める事しかできなかった。この時ほど今動けない自分の状態を嘆いたことはない。
「ハッ……ハッ……」
彼女の走りは見事なものだった。
飛び交う光の雨を難なく避け素早くホシに迫るその姿はまるで空から落ちてくる稲妻のようにすら見えた。
しかし限界は訪れる。
ホシの手前。光の中心であるこの場所で彼女は被弾してしまう。
脇腹、左腕、そして右脚。被弾した場所から激痛が走るがそれでも彼女は走りを緩めない。歯を食いしばりながらもホシに向かって走り続けた。
「負けない! 大切な人を守るためにも、わたしは負けたくない!」
そしてホシの下へ辿り着く。右手に持った
目の前には輝く金色の景色。叫び声を上げるホシの姿がある。
バンッ
乾いた音が鳴り響いた瞬間、広い舞台の上でスポットライトに照らされた幼い少女の姿が映った。
『♪♪♪〜♪〜♪♪♪♪〜♪〜♪〜』
少女は歌っていた。誰もいない舞台の上で。一人寂しく『小さな世界』の歌を歌っていた。
『♪♪〜♪〜♪〜♪♪………………hi……g』
しかし歌声は徐々に嗚咽となり、やがては慟哭となってしまう。
そして泣き崩れた少女は小さな声でこう呟いた。
『
直後、大きな衝撃と共に目の前が激しい光に包まれる。その時、啜り泣く少女の光景を見たハトはこう思った。
『あぁ、彼女も寂しかったんだなぁ』と。
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