第8話 二人の絆

    *


 イブキが向かっていた場所は先程二体の九芒星に襲われた劇場だった。


 先程の光はあそこから発せられたのだろうか。そんな疑問を持ちながらハトは劇場に向かっているイブキの後に歩いていた。


「メイちゃん 通信はまだ繋がらないの?」

「繋がらないわぁ イブキさんのこともだけど嫌な予感がするわぁ」

 

 そうしてイブキについて行くと光の発生した場所であろう劇場にたどり着いた。


 激しい戦闘があったというのに未だに建物がハッキリと残っており幸せそうな笑顔を浮かべている二体の妖精が少女達を迎える。


「…………」

「イブちゃん 待ってよ」


 その呼び掛けに彼女はようやくこちらへ振り返る。


 振り返った彼女は狂気の瞳を浮かべニッコリと笑っていた。まるで映画が待ちきれない子供のように。


「ウフフ、ハトちゃん! ようやくこの時が来たんだ。お父さんとお母さんと、私の全てを奪った奴に復讐する時が」

「イブちゃん落ち着いて! 冷静にならないと死んじゃう!」

「ウフフ あのホシに復讐するために私はこれまで生きてたんだ。これでようやく私は死ぬことが」


 パンッ!

 

 破裂音のような音が木霊した。


 ハトがイブキの顔を叩いたのだ。


 叩いたハトは顔を伏せて身体を震わせおり、叩かれたイブキは何が起きたかわからないのか驚いたように身体が固まっている。


「死ぬことができるなんて言わないで」

「ハトちゃん…………?」

「確かにあのホシは憎いと思うよ。でもイブちゃんの人生の全てをソイツの復讐だけで終わらせないで」


 ハトが以前から感じていた親友の危うさ。それは悲しみだ。


 5年前、あらゆるものを失った悲しみが爆発してしまったのだ。


 そして彼女はこう思ってしまった。復讐だけが生きる原動力になると。


 ハトはそれが許せなかった。復讐だけが人生だと思う彼女を。


「わたしはどうなるの? イブちゃんがいないとわたしは生きていけないよ」

「あっ…………」


 その一言にイブキはハッとした。


 そう、全てを失ったわけではなかった、まだ大切なこと親友がいつも隣にいてくれた。


 イブキの瞳に正気の光が宿る。


「ごめんねハトちゃん 私あの光を見てからどうかしてた」

「いいよ イブちゃんのためならこれぐらい大したことないからネ」


 そうして二人は顔を見つめ笑い合った。


 二人の表情は晴々としており、太陽のように輝いていた。


「二人とも、もう良いかしらぁ。ここは敵陣なのを忘れないでねぇ」


 メイアの朗らかな声に二人は肩を震わせる。


 そう、ここはホシ達の巣窟。それも目の前の建物にはその親玉が潜んでいるかもしれない場所だ、


 三人は互いに頷くとそれぞれの武器を構えた。

 そして通信機で本部へ送信してみるが、本部に通信は届かない。


「通信は未だに繋がらない、かと言ってこれ以上待つのも危険だと思う。だからこのまま劇場に入りたい」

「わかった 気をつけて行こうネ」

「了解よぉ」


 そうしてイブキは無言でドアを開き閑散としたロビーが彼女達を出迎えるのだった。

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