第7話 忌まわしき光
*
大火と冷気の消えた童話の街、ある種の静寂に包まれた街の一角に白い服を着た少女達の姿が見えた。
二体の九芒星との戦闘を終えたイブキ、ハト、メイアの三人は戦いの疲労を癒すためにメイアの
幸いなことに周辺に敵の気配も無く、少女達は束の間の休息を享受している。
そしてハトは先の戦闘で一番体力を消耗しているイブキを心配する様子で見つめていた。
「イブちゃん大丈夫?」
「無理しないでゆっくり休んでねぇ」
「うん 大丈夫だよ」
イブキは笑いながら乱した呼吸混じりに答える。
そんなイブキを見かねたのかハトはバックパックからある物を取り出した。
「イブちゃん これでも食べて少しでも体力を回復させて」
それは包装フィルムに包まれたおにぎりだった。
戦闘の影響で少し潰れかけているがそれでも形は保っているおにぎりをイブキは嬉しそうに受け取った。
「ありがとね ハト」
「美味しい召し上がって!」
いただきますと言ってイブキはおにぎりを一口食べた。
少し冷えたお米。口の中に広がる味噌の風味とひき肉の感触。どうやら肉味噌が具で入っているようで、お米と味噌の美味しさが疲労した身体を火照らせる。
「美味しい………… うん?」
しかし、その美味しさの中に違和感が。お米ともひき肉とも違う食感。これは野菜の食感が歯に感じた。
次に感じたのは苦味。どうにも言いようのならない苦味にイブキは思わず顔を顰めながらおにぎりを見てみる。
そこには彼女の苦手なピーマンが細長く刻まれながら肉味噌の中に潜んでいた。
顔を上げハトを見ると、彼女は白い歯を見せながらニヤニヤと笑っていた。
「イヒヒ イタズラ大成功〜!」
「ハトちゃぁん!」
イブキはおにぎりを頬張りながらハトに詰め寄った。
「もう なんでピーマン食べさせたの!」
「だってイブちゃんのびっくりする顔が見たかったもん!」
「うふふ あんまり騒がないでねぇ」
ここが戦場の中心地ということを忘れるかのような、暖かい空気。
そんな賑やかな一時を通信機のコール音が遮った。
その音に笑っていた彼女達の表情は真面目な面持ちに切り替わり、すぐさま通信機を起動する。
「こちらチームE コードI」
『こちらオペレーター チームEの行動区域にて大規模な戦闘を観測 状況を報告せよ』
「了解 行動区域にある劇場前にて二体の九芒星と遭遇しました」
『九芒星が二体!?』
イブキの報告に通信機越しにいるオペレーターの動揺の声が響く。
動揺するのも無理はない。九芒星というのはホシ達のなかでも上位の個体であり遭遇することは滅多にない、そんな奴と二体同時に遭遇するというのはホシ達に何かしらの目的があるか余程の不幸者ぐらいだ。
『し、失礼 報告を続けてください』
「二体の九芒星の討伐には成功 仮定ですがこの区域にコード・ヴィーナスが潜伏してる可能性があります ですので本部の判断を仰ぎたいです」
『わかった 他チームをそちらの……に…………まわ…………手配…………つうし…………わるい』
唐突に通信機から聞こえる声にノイズ音が混じり始める。
砂嵐が吹くようなノイズ音にこの場にいる三人は目を細めた。
「本部応答せよ! 応答せよ!」
いくら呼びかけようと通信機からはノイズ音しか聞こえなかった。
通信機の故障か、敵の妨害か。一体何が起こったのかまるでわからない。
「メイア、ホシの気配は!」
「………… 無いわぁ、ホシの妨害ではなさそうよ」
「ホシじゃないなら一体なんで」
その瞬間 眩い黄金の光が童話の街を照らし出した。
夜明けの太陽のような輝きにハトとメイアは思わず腕で顔を覆った。
一方イブキは その光を肌に感じた瞬間、ある景色が脳裏にフラッシュバックされる。
「………………!」
忘れもしない5年前の憎き記憶。
平和な日々が破壊された瞬間、両親が庇って死んだ瞬間、人々の阿鼻叫喚の声が大きくなった瞬間、ありとあらゆるものを奪われた瞬間
あの光が輝く瞬間、必ず誰かが死ぬ。
忌まわしき光をイブキは眼を見開いて見つめている。その表情はどこか恍惚としており子供のような無邪気ささえ感じられる。
「うぅ やっと収まった」
「この光ってもしかしてぇ……」
光が治まり眼を開けたハトが見たのは笑っている親友の姿。その様子は先程じゃれあっていた時とは似ても似つかないほどに歪んだ笑みだった。
「イブちゃん?」
「見つけた……」
漏れ出した一言。しかしその一言は、ありとあらゆる感情の説明ができるほどに力がこもっていた。
イブキはスッと立ち上がり
「待って!」
ハトが呼びかけようともイブキの歩みは止まらない。真っ直ぐにその場所へ歩き進める。
彼女の変貌にハトとメイアは困惑しながらも後を追いかけるのだった。
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