第5話 二対のホシ①

    *


I can't goホシの下には …………under the 行かせない star』

We defend我々が …………the starホシを守る


 上位個体のホシは高い知能を持ち言葉を話せる。しかし今彼女達が考えるべきなのはヤツら言葉が話せるかどうかでは無い。どうのようにヤツらを倒すかだ。


「エンカウント!」


 イブキは挨拶代わりと言わんばかりに上空で浮いている二体のホシに向けて二発、芒炎鏡ぼうえんきょうを撃った。


 しかし二発のオレンジ色の光をホシ達は危なげなく避けた。


 遠い。このままの距離で撃っても避けられるだけだろう。ヤツらを倒すにはもっと近くで撃たなくては。


「ハトちゃんは私に続いてホシ達を引き寄せる メイアさんはサポートをお願い」

「わかったよ!」

「了解よぉ」


 そうして彼女達は二体のホシと対峙する。


 見上げる彼女達に二体の九芒のホシは見下ろすようにその身体を傾け、その全身を淡く輝かせると。


 童話の街に悲劇を迎え入れた。


「火と氷! 巻き込まれないように注意して付いてきて!」

 

 ホシ達から発せられたのは燃え盛る炎と凍え冷える氷。対を成す二つの力が小さな街に投げ込まれた。


 熱い 寒い 熱い 寒い 熱い 寒い


 同時に襲う温度の攻撃は幸せだった童話の街を一瞬で悲劇の舞台へと変貌させた。


 そんな悲劇の舞台を三人は駆け抜けていた。

 一つの目的地を目指して。


「ど、どこに行くの!」

「とにかく今は私に着いてきて! …………ッ!」


 しかし逃げる彼女達を敵は逃がさない。


 上空に鎮座する二体のホシは彼女達を追いながらそれぞれ赤と青の光線を放った。


 光線は一瞬で彼女達の下に迫り大きな爆発音を響かせた。


 土埃が舞い散り徐々に晴れていく。


「ようやく私の出番ねぇ」


 そこには緑色の光に守られたメイアの姿があった。


 その目の前にはバックパックから覗かせる一本のアンテナ、そして宙で漂う緑色のホログラムパネルがあり、彼女は走りながら両手で素早く何かを入力する。


「"バリアプログラム再構築 対象の攻撃を予測し自動反応に設定 陣光衛星じんこうえいせい 起動"」

 

 機械音声が彼女の端末が鳴り響く。


 メイアが装備しているのは天門台が開発した前線補助機器『陣光衛星じんこうえいせい』。大きなバックパックと連動するホログラムパネルを操作し様々な補助を前衛に施しサポートする天門台には無くてはならない大事な装置だ。


 この緑色のバリアもその一つ。ホシの強力な攻撃を守れたのも彼女の卓越した技術と陣光衛星じんこうえいせいのスペックの高さが成せる技だ。


「守りは私に任せて 先を急いで行きましょう」

「ありがとうございます!」


 そうして彼女達は光線の雨と凍える熱さを掻い潜りながら悲劇の舞台を走り続ける。


 目に映る燃えるレンガの家に人魚の像、抱き合うように氷漬けになったトナカイにお姫様の人形を通り過ぎその場所に辿り着く。


 そこは街に作られた広場。過去には数多の大道芸が開催され客の歓喜の声で賑わったであろう場所。

 広場の中心で三人は立ち止まり空に浮かぶ二体のホシに目を向ける。

 

「距離はどのくらい!?」

「およそ20ぐらいよぉ」

「これじゃあ届かないよ!」


 芒炎鏡の有効射程は長くても15m。このままではどうやってもあの九芒星には当たらない。


 それでもイブキは歯を食いしばりながら狙いを定め芒炎鏡のトリガーを連射する。


 しかし届かない。放たれたオレンジ色の光は呆気なく全て避けられ背後にある塔に当たってしまった。


 そして九芒星のホシ達もこの機会を逃さない。立ち止まりこちらを見上げる三人に向かって先程のように淡い光と共に赤と青のビームを放った。


「させないわぁ!」


 メイアが素早く陣光衛星を操作しバリアを構築。放たれた二種の光線を受け止めた。


 しかし九芒星という上位個体、しかも二体の攻撃に緑色のバリアがピシッという音を立ててヒビが浮かんで来た。


 もう保たない 誰もがそう思い死を悟った時、この広場に異変が訪れる。


 最初に感じたのはぐらりとした振動音。次に感じたのは二体のホシの背後の光景。


「やっぱりね」


 イブキの確信とも言える声と同時に二体のホシの背後にあるツタに絡まれた塔が音を立てて崩れ始めていたのだ。


 その様相はまさに創世記の塔が崩壊する瞬間のようだった。

 

「二人とも 思いっきり飛んで!!」


 そうして三人は脇目も振らずに広場の端に向かって飛び込んだ。


 直後にドラゴンの雄叫びのような音と共に塔が崩れた。


 建てられたレンガが土砂のように降りしきり廃れた広場に錯乱し、埋め尽くしていく。


30秒ほど時間が経つと崩壊の音も鳴り止んだ。


 イブキはふうと息を吐きながら。ハトは疲れたように肩で息をしながら。メイアは普段と変わらない様子で各々立ち上がった。


「イブちゃん! 塔を壊すって先に言ってよぉ!」

「説明する暇が無くってさぁ。本当にごめん!」

「さすがに私も焦ったわぁ。…………でも」


 チラリと崩壊した塔の瓦礫の方を見る。


 塔の目の前で浮いていた二体のホシは逃れることができず崩落に巻き込まれてしまった。


「………やったの?」

「まだだよ」


 これで倒せた…………とはならない。


 瓦礫からガタリと音が聞こえてくる。


 その音は徐々に大きくなっていき、そして二体の九芒星は瓦礫から飛び出して来た。


 思わぬ攻撃によって高く飛ぶことはできなくなってしまったが、その強さは未だに健在のようだ。


Defend守る…………defend守るんだ…………』

Never絶対に …………let throug通さないh…………』

 

 発せられる言葉にはある種の執念が感じられる。

 しかし彼女達も負けられない理由がある。


「やるよ」

「うん、わかったよ」

「もちろんよぉ」


 お互いの戦う理由。それらは決して相容れない物だ。故にここで決着を付けようか。


『Arghhhhhhhh!!』


 最初に仕掛けたのは赤い九芒星。


 叫ぶような声を上げながら先程よりも太く大きなレーザーを放つ。


「ふふふ この距離なら射程圏内よぉ」


 それに対してメイアが目に見えない速さでホログラムパネルを操作する。


「"メイアープログラム起動 対象の熱源を 操作する"」


 瞬間 ありえない光景が目に映る。九芒星の放ったレーザーが緑色の膜のようなものに覆われメイアの目の前で静止したのだ。


「"反転リバース"」


 そして、静止したレーザーはぐるりと反転し赤い九芒星に返ってくる。


 赤い九芒星は慌てたように返って来たレーザーを回避しようと動こうとする。が。


「ざんねんだったネ もう既に仕掛けてあるよ」


 ビリッという音と共に赤い九芒星の動きが石のように止まってしまった。


 その足元にはいつのまにか罠である『星電器せいでんき』が仕掛けられていた。


 いつ どのように。そんなことを考える暇も無く赤いホシは自身が放ったレーザーに直撃した。


『Arghhhhhhh!!』


 爆発の衝撃と声なき悲鳴が風のように吹き荒れ街に放たれた炎が吹き飛ばされた。

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