第3話 真実
それは夢実が戦魔帝国との戦いに慣れたある日の事。
渋谷109前、とあるスカウトマンを見かけた。
「アイドルに興味ありませんかー!?」
(声デカ……アイドルのスカウトってあんな露骨なもんだっけ……?)
地下アイドルも大量にいる戦国時代、珍しいものでもないのかもしれないと夢実は思いながら、通り過ぎようとする。
しかし、聞き捨てならない言葉を聞いた。
「アイドル事務所、戦魔帝国はアイドルを募集中でーす!」
「……は?」
その日、少女は真実を知った。
☆☆☆
チームラピスラズリの基地(アイドル事務所ラピスラズリとも言う)
「どういうことよマネ!」
『どういうこともなにも、戦魔帝国は同業他社だということです』
「そんなの私、聞いてない!」
『言ってませんでしたからね』
白い球体に殴りかかる夢実、しかしその拳はホログラムにすかされる。
『戦魔帝国が人々に被害を与えてる事実は変わりません、そうでしょう?』
「でも! つまり、あの恐竜モドキに乗ってるのは人間なんでしょう!?」
『……』
その沈黙は肯定だった。
夢実は自分が人殺しだという事実を受け入れられない。
――今まで何人殺した?
まだそれほど日は経っていない。
それでも夢実が数体の、いや数機の戦魔帝国を撃墜したのは事実だ。
「いまさらそれがなんだってんだ」
「アンジェラ……知ってたの?」
「ああ、知ってた、だからなんだ、アタシに殴りかかるか? 喧嘩は言い値で買うぞ?」
「……もうどうしたらいいかわからない」
すると夢実はリズムに胸倉を掴まれた。
「あんたが奪った命はあんたが背負いなさい、それが例え、知らなかったとしてもよ」
理不尽だと夢実は思った、しかし有無を言わさぬ圧があった。
こんな不条理を受け入れるわけにはいかない。
胸倉の腕を振り切るとその場から逃げ去った。
「夢実!」
カリンの制止も聞かずに事務所を飛び出す。
逃げる場などもうないと知りながら。
夢実はまた走った。
もう辿り着くステージもない。
★★★
外の熱い空気が肺を焼き焦がす。
明らかに熱量がおかしい。
現れる戦魔帝国の機体。
炎の恐竜とでも呼ぶべき真っ赤な機体。
目の宝石が爛々と輝いている。
その巨躯がこちらを見下ろす。
戦魔帝国の機体、その恐竜の口内に炎が溜まる。
――ああ、ここで焼き殺されるんだ。
そう諦めかけた時だった。
一機のイデアールが夢実の下へと舞い降りる。
それは。
「イデアール
『ユメミ! あなたはアイドルです! 人々に生きる希望を与える、アイドルなのです!』
「マネ? でもその命を私は」
『ではその戦魔帝国に殺される人々は!?』
そこで夢実はハッとなる。
そうだ。
殺していたとしても、それで救った命もあるんだと。
等価とは言わない。
どちらが貴重か論じる気も無い。
ただ自分の信じた道を征く。
それが――
「アイドル、だもんね!」
目に星を宿し、夢を実らせるアイドル。
星野夢実が覚醒した日だった。
イデアール4のコックピットが開く。
そこに飛び乗ると思い切り歌う夢実。
「新曲で行く!」
――嵐を掻き分け進む
これは貴方を導く物語
海は静か、空は高く、地に映える
この翼を広げ、今、飛び立つ神話
英雄はもう目覚めた
さあ戦おう、私と一緒に!
嵐を掻き分け進む
閃光の中、沈む闇黒、人は生きる
救い上げて、今、旅立つ神話
剣はもう取られた。
さあ戦おう、私と共に!
サイリウムブレイドが一閃。
赤き恐竜の首を刎ねる。
そこから溢れ出る光のシャワーが。
イデアールを彩った。
それはまさしくステージに立つアイドルの様に。
???
そのすぐあとだった。
戦魔帝国の機体の真上に暗雲が立ち込める。
比喩ではなく物理的に。
暗い雲は曇天となり。
辺りを闇へと誘った。
『これより――』
低い低い男の声が天より響く。
『アイドルバトルアリーナを開催する!』
沸き立つ観客。
夢実はただ困惑のまま空を見つめる。
一機の黒いイデアールが空から降りてくる。
白を基調としたイデアールとは真逆なはずなのに、同じ形状の機体。
そこに夢実は確かにidolドライブの波長を感じていた。
『此処に全てのアイドルが出そろった。覚醒の刻、来たれり! アイドルの頂点を決める戦いが始まるのだ!!』
轟く声と共に。
天空から黒いイデアールを覆うように巨大な逆さの武道館が降りてきた。
天蓋を覆う逆武道館。
――そう、これは新たな戦い。
戦魔帝国との戦いなど序の口に過ぎない。
真なる敵は芸能界より迫って来ていたのだ。
続く……?
アイドルバスター! 亜未田久志 @abky-6102
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