第5話 ダンジョンへの道

 レベル100越えでの初戦闘はレッドドラゴンとなってしまった。

 剣で一撃入れただけで勝ってしまったが。


「な、何が起きたんだ?」


 猿田には何が起きたかわからなかったようだ。


「う、うん。俺もよくわからない」


 言い訳にしては苦しすぎるか……。


「だ、だよな」


 意外なことに猿田は納得してるようだ。

 俺がレベル1の底辺であって欲しいという願望がそうさせたのか。

 

「ヒサシ。気をつけろよ。スライムしか出ないような場所でも変異体があらわれるからな」

「あ、ああ」


 ドラゴンに吹っ飛ばされたのに無傷のようだ。

 頑丈な奴だ。

 猿田はダンジョンへ向かうと言って立ち去った。

 やはり新しいスキルと俺のレベルについては秘密にしておこう。

 今回のように不用意に力を使うのは控えなくては。




---




「ここだな」


 南池袋公園から300メートルほどの場所。

 まがまがしい雰囲気の2階建ての建物。

 一般人は入る事ができない。

 まがりなりにも俺は冒険者の資格を有する。


「いらっしゃい」


 中に入ると店主が奥のカウンターから声をかけてきた。

 ヒゲモジャの黄金の兜をかぶったじいさん。

 腕が四本ある。

 この店は異世界なのだ。

 一般人では立ち入る事すらできない。


 異世界パンデミック第一波ファーストウェーブでもたらされた僥倖(ぎょうこう)の1つと言われる。

 異世界建造物の転移。

 ここには元々メガネ屋があったらしいが、その店は異世界へと転移したらしい。

 そして、ここに異世界の武器屋があらわれた。

 

 店内には俺1人だけだ。

 剣や斧、弓矢、魔法の杖など異世界風の武器がたくさん並んでいる。

 意外な事に拳銃や手榴弾なんかも陳列されている。

 拳銃の威力は初級レベルの炎系や爆発系のスキルと同じぐらいはあるらしいと聞いているので、魔物に対しても有効なんだろう。


「はじめて見る顔じゃな」


 店主がぎろりとにらみながら声をかけてきた。


「は、はい……」

「ダンジョンへ行くのか?」

「はい」

「なら、これは必須だ。武器は学校で支給されたもので十分だろう」


 店主がさしだしたのはボロい布でつくられた袋だった。


「え……。この袋ですか?」

「ああ。たったの10万円だ」


 店主は、さっさと金をよこせと言わんばかりに手を出してきた。

 

(いや、こんなボロい布の袋が10万って、たっか!)


「高校3年なら支度金20万支給されてるだろ。ほれ、さっさと支払え」

「は、はあ……」


 いきなりぼったくり?

 支度金20万支給されるの知ってて半分取ろうと言うことか。

 半分はかあさんに預けたから10万は俺の所持金額ほとんど全額だ。


「なんにも知らんのじゃな」

「はい?」

「この袋は冒険者必須のアイテム。道具袋じゃ。この中にどんな大きさのものでも関係なく10個物を入れられる」

「え!? そうなんですか?」

「それに刃渡り1メートルを超える刃物や重火器。異世界の物品を持ち歩くと銃刀法違反じゃ」

「え! そうなんですか?」


 学校で支給された剣はレイピアと呼ばれる小型の剣で刃渡りが40センチほどだ。

 銃刀法違反だとか全く知らなかった。

 つーか、3年になってから教えられるはずの冒険者としての基礎的な内容は教えられていない。

 毎回自習だったから公園に出かけてスライム退治ばかりしていた。

 冒険者の教科書を見たら書いてあったのかもしれない。


「なんも知らんのじゃのう。この道具袋の中は亜空間で異世界に属しておるから治外法権なんじゃ。そしてこの店の中も治外法権」


 店主はそう言うと不敵な笑みを浮かべ、ずっと背中の後ろに隠していた手を出して来た。

 右手の道具袋、金をさしだすよう催促する左手。

 出してきた両手には斧。


「ここでおぬしを切り刻んで金をうばっても犯罪でも何でも無いということじゃ」

「え!?」


 思わず後ろに飛び退いた。


「わっはっはっは! 冗談じゃよ」


 店主は斧をひっこめると四本の手を叩きながら大笑いした。


「じょ、じょうだんって! わからないですよ!」

「すまん。すまん。ほれ、この道具袋、半額にしてやるよ」

「は、はあ……」


 それでも5万円。だいぶ高いが。


「他の生徒は担任に連れられて買いに来るのに、おぬしはたった1人で、何か事情あるんじゃろう。

 何かわからない事あるならいつでも来なさい」

「ありがとうございます」


 なんだ店主、意外に良い人なのかもしれない。


「お主みたいな異世界に慣れとらん人間が、いきなりダンジョンに入るのは危険じゃ。この店の斜め前の店にも寄っていくがいい」

「は、はあ」


 まだお昼前だ。

 もう少し時間をつぶさないと他のクラスの生徒がダンジョンにいそうだ。

 ちょうどいいので行ってみよう。


 武器屋の斜め前の店は、普通のカレー屋だ。

 

「なんだ? 普通の店じゃないか。ん?」


 よく見ると地下への入り口が別にある。

 入り口は青い光に包まれている。

 先程の武器屋もそうだが異世界から転移して来た建物は青い光を発するのだ。

 

「とりあえず入ってみよう」


 階段を降りると扉があった。

 扉をあけるといきなり声をかけられた。


「いらっしゃいませ! 異世界メイド喫茶『オスティウム』へようこそ」

 

 猫耳に尻尾がついたメイドさん。

 中には数名の客と猫耳以外にもウサギの耳のメイドさんもいる。

 おそらく獣人族だ。

 はじめて目にした。


(あの店主。絶対おもしろがって俺をメイド喫茶をすすめたんだ)


「ほら、お席はこちらですよ」


 メイドさんに誘導されて、あれよ、あれよと言う間に席に案内され楽しい時間をすごした。

 いや、勉強不足を補うためにリアル獣人族の方に話を聞くフィールドワークを行ったのだ。

 異世界パンデミック第一波ファーストウェーブで行方不明者が多数出たのは知っていた。

 しかし、ダンジョンやこの店のような異世界の建物が多数転移してきたのは異世界パンデミック第二波セカンドウェーブの時だったらしい。


 今や突然現れる魔物はすぐに討伐され、ダンジョンや魔物が発生する場所は管理下におかれ通常の生活では異世界を、ほぼ意識することがない。

 俺の住んでいる地域だと街の中心にそびえたつ異世界の塔が目立つぐらいだ。

 俺がスライム討伐していた公園の一角の金網で囲まれた場所は一般人が見学も出来る珍しい場所だ。


 メイド喫茶からさらに300メートルほど。

 目的のダンジョンは青く不気味に光っている。

 『びっくりダンジョン』正式名称、都道池袋ダンジョン管理番号40番。

 びっくりなんて名前がついてるから魔物が出てきてびっくりするのかと思っていたが異世界パンデミック以前からびっくりガードと呼ばれていたらしい。


 このあたりは、ほとんど人が居ない。

 いくら管理下にあるとは言え危険な魔物が出てくる可能性が無いわけではない。

 一般人は、まず近づかない。

 あたりを見渡すと同じ学校の生徒達も居ないようだ。

 ダンジョン探索は午前中のうちにすませるのが通常だからだ。


「よし! いよいよ俺の力を試す時だ」

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