第2話 最高にレアな最弱スキル
「今日は君たち32名が待ちに待ったクラス分け試験の日。3月20日、木曜日、大安吉日である!」
ヒゲモジャの大男。
ぴっちりとした軍服に身を包む。
頑丈そうな軍服が盛りあがる筋肉で今にもはちきれんばかりだ。
「ワガハイは建御雷神(たけみかづちのかみ)である!」
学校前の公園に大きな声が響き渡る。
今日は、自衛軍大将がわざわざ出向いて来るほどの重要な日なのだ。
「総理からありがたいお言葉が届いておる!」
建御雷神(たけみかづちのかみ)大将がそう言うと公園にある大型モニターに特徴ある誰もが知るこの国の総理大臣が映し出された。
「ほっほっほ。ワシは大国(おおくに)じゃ。ちっとは名も知れておる」
つるつるの頭が光る。
白い口ヒゲが真横にピンと伸びている。
白くて長いヒゲは、まるで飛行機の羽のようだ。
こんなインパクトのある見た目の老人はそうそう居ない。
「おいおい、リモートとは言え総理大臣まで挨拶するのかよ」
「見て見てあのヒゲ。片側だけでも50センチあるかなぁ」
「すげえ。総理だ」
総理大臣の登場にクラスがざわついた。
「静かにせよ!」
建御雷神(たけみかづちのかみ)大将が一括した。
あたりは静まり返る。
「よいよい。ほっほっほ。元気があってよい。この国の平和と未来は君たちにかかっておる。期待しておるぞ」
大国(おおくに)総理がそう言うとモニターの映像は切れた。
「総理はお忙しい方である! 激励に答えるよう全力をつくせ! さっそく試験開始だ!」
---
「うりゃあああ!」
猿田(さるた)は思いっきりスライムをぶっ飛ばした。
金網にぶつかると光の粒となって消えた。
「よっしゃあああ! レベルアップ!」
猿田がガッツポーズしている。
建御雷神(たけみかづちのかみ)大将が右手をかざして何か唱えると猿田のステータスが空中に表示された。
――――――――――――――――――――
猿田(さるた) 正彦(ただひこ) 17歳 男 レベル:1
HP:20/20 MP:0/0
攻撃力:16
耐久力:8
速 度:6
知 性:2
精神力:2
幸 運:3
スキル:黄金の鎧 発動すると耐久力を110%アップ
――――――――――――――――――――
猿田はステータス持ちとなった。
一般人のレベル0からレベル1となった。
冒険者としてのスタートラインに立ったことになる。
「なかなか見どころありだ!」
建御雷神(たけみかづちのかみ)大将が大きな声を発した。
「黄金の鎧というスキルは発動すると耐久力を110%アップさせるようだ。猿田君と言ったか卒業後我が隊にはいりたまえ!」
「は、はい! ありがとうございます!」
猿田は敬礼した。
猿田がドーム状の金網から出ると次の生徒が入りスライムと1対1で戦う。
レベル1になったステータスとスキルを建御雷神(たけみかづちのかみ)大将が全員の前で発表と解説する。
空中に表示された猿田のステータス。それにスキルの解説。これは建御雷神(たけみかづちのかみ)大将のスキルによるものなんだろうか?
それにこの公園の一角のドーム状の金網で囲まれた場所。
普段はスライムが1日に数匹発生するか、しないか、だったはずだ。
生徒が1人金網に入るごとに都合よくスライムが1匹だけ登場するなんて、これもスキルの力なんだろうか?
世界でもトップクラスと言われる力の持ち主だ。
どんなスキルを持っているか謎が深い。
「炎のスキル! 火炎を身にまとい攻撃力と防御略をアップさせる! これは珍しいぞ!」
「分身スキル! 己の完全なる分身を作り出すスキル! レアスキルだ!」
「光のスキル! 光線を指先から発する! これもレアスキルだ!」
次々と生徒がレベルアップしスキルが判明する。
「お、お願いしますっ!」
必死に絞り出すような声を出しているのはミキだ。
足が震えている大丈夫だろうか?
「承継(コネクト)のスキル! んん? これは超レアスキル! 他人のスキルを別の誰かが使えるようにする最強のサポートスキルだ!」
建御雷神(たけみかづちのかみ)大将は驚いている。
――――――――――――――――――――
月詠(つきよみ) ミキ 17歳 女 レベル:1
HP:6/6 MP:0/0
攻撃力:1
耐久力:2
速 度:2
知 性:4
精神力:4
幸 運:4
スキル:コネクト 他人のスキルを別の誰かが使えるようにする
――――――――――――――――――――
「ミキ良かったな」
金網から出てきたミキに声をかけた。
「う、うん。人のために役立つスキルでよかった。相手が魔物とは言え直接戦うのはあまり気乗りしなかったし」
「ミキらしいな。次は俺の番だ。俺は戦闘に役立つスキルがいいな」
金網の扉をあけて中に入ると目の前が光ったかと思うとスライムが現れた。
支給された剣を振り下ろすと一瞬で真っ二つになった。
「ほうっ!」
建御雷神(たけみかづちのかみ)大将の関心した声が聞こえた。
実戦は初めてだが訓練はまじめにこなしてきた。
特に剣技には少しだけ自信がある。
高速剣や二刀流、三刀流、魔法剣、剣技にかかわるスキルがほしい。
「リストリクト! これは稀(まれ)の稀(まれ)の稀(まれ)レアスキルである!」
建御雷神(たけみかづちのかみ)大将が叫んだ!
「おおおおお!」
クラス全員の視線が俺に集まる。
これまで人生で、こんなにも注目された事が無いのではずかしい。
しかし、リストリクトとはどんなスキルなんだ?
「建御雷神(たけみかづちのかみ)大将! 俺のスキルはどんな効果があるんでしょうか?」
スキルの説明が無いので思わず聞いてしまった。
建御雷神(たけみかづちのかみ)大将は、こちらを見つめたまま動かない。
「う、うむぅ……」
全てに勢いがある建御雷神(たけみかづちのかみ)大将が口ごもっている。
「教えてください!」
俺は頭を下げた。
「レベルを常に1にするスキルのようだ……」
「えっ? どういうことですか? レベルを常に1にするって……」
「そのままの意味である。レベルを1にするスキルだ。レベルが2でも3でも1に戻す」
そんなスキル。
あるのかよ……。
「おいおい! なんだよ、そのハズレスキル! ぶわーっはっはっは!」
猿田が大笑いした。
クラスの全員も一斉に笑いだした。
「こ、こんなスキル一生使えないじゃないですか!」
俺が悔しくて叫ぶと建御雷神(たけみかづちのかみ)大将が静かに言った。
「稀(まれ)で稀(まれ)で稀(まれ)な事に自動発動スキル。スキルが、すでに発動している」
「え? つまり、俺は一生レベル1のまま?」
俺は悔しくて涙があふれそうになった。
目に涙をためているのを誰にも見られたくない。
思わず走り出した。
「ヒサシくん!」
ミキが追ってきた。
「来るな!」
俺が怒鳴るとミキは立ち止まった。
悲しそうな顔をしているが、今の俺の泣きそうな顔に比べたら何倍もマシだ。
「おいおい! 逃げ出したぞ!」
「おもしれー!」
俺が走り去った場所から馬鹿にするような声が聞こえて来た。
悔しさと恥ずかしさで頭の中がいっぱいだった。
そして、この時はまだこのスキルの本当の価値をわかっていなかった。
――――――――――――――――――――
天野(あまの) ヒサシ 17歳 男 レベル:1(リストリクト効果発動中)
HP:8/8 MP:0/0
攻撃力:4
耐久力:2
速 度:2
知 性:2
精神力:2
幸 運:4
スキル:リストリクト 常にレベルを1にするスキル(自動発動)
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