異世界パンデミック
ユニ
最弱から最強へ
第1話 最強の最低レベル
「たあっ!」
剣を勢いよく振り下ろす。
目の前の敵は動きを止めると青い光の粒へと霧散した。
俺が戦闘している場所は公園のいっかく。
金網で囲まれている。
直径10メートルほどのドーム状。
ボクシングのリングがちょうど中に入りそうだ。
金網の外から歓声がわく。
「わー! おにいちゃん、すごーい!」
小さな女の子が喜んでいる。
「うん。うん。すごいのう。ありがたや」
おばあさんもほほえんでいる。
金網の周囲には俺の戦いを見守る近所の子供達や老人、ママ達であふれている。
俺は近所で、ちょっとしたヒーロー扱いだ。
今日で連続109日目。
5253体の敵を倒した。
レベルアップのお知らせが視界のはじで表示される。
しかし、レベルアップしてもレベルは1のまま。
どれだけ経験値をためてもレベルが上がらない。
もう慣れたので何とも思わない。
今は、近所の人たちの役に立てたことがうれしい。
「おい! ヒサシ!」
突然、無駄にデカイ声で呼びつけられた。
「さ、猿田(さるた)君。ど、どうしたんだい?」
猿田(さるた) 正彦(ただひこ)。
俺と同じ高校3年。
高校生にしてレベル23の猿田は、日本国内でも上位の実力を持つ冒険者だ。
猿田は近所の人たちを強引にかき分け金網の中へと入ってきた。
「お前、またスライムなんて最弱な魔物を倒して偉そうにしてんのか!」
猿田は大きな声でそう言うとバカ笑いした。
「猿田君。ダメだよ。学校の制服のまま金網の中に入ってきたら。
戦闘服にチェンジしないと危ないじゃないか」
「おい! 俺に指図しようってのか? だいたい、ここはスライムしか出ねーじゃねーか! スライムなんてオレんちの猫より弱いぞ!」
金網の外で観戦してた子供やお年寄り達の姿はいつの間にか消えていた。
高校3年にして2メートルの身長。
巨大な体躯。
そして、この粗暴で大きな声。
猿田は公園で子供やお年寄りに恐れられているのだ。
「誰かが毎日、公園の一角に湧(わ)くスライムは倒さないといけないわけだし」
「あ~ん? 口ごたえするのか? ヒサシ」
猿田は顔を不必要に近づけてきた。
だいたい、俺にスライム討伐をおしつけたのは、こいつだ。
「最底辺の最弱野郎にはお似合いだ」とか馬鹿にして。
「スライム討伐は俺達高校3年生の毎日の仕事だし、
そもそも毎日交代で担当するはずなのに俺に全て押しつけたのは猿田君じゃないか」
「ガーハッハ! そうだそうだ。忘れてた」
猿田は馬鹿にしたように大声で笑った。
「そうだったな。スライム掃除はオレ達高校生の仕事だったな。
だが、オレ様のようなエリートクラスの人間がやる仕事じゃないからな」
「スライム掃除だなんて馬鹿にするなよ……」
「あっ! そうだ。もう家に帰らないといけなかった。じゃあな。スライム掃除屋(クリーナー)さん」
猿田が馬鹿にしたように言い去ろうとした瞬間。
金網の中心が光り輝いた。
魔物は突然空気中に光と共に現れる。
「ん? またスライムか? ヒサシ頼んだぞ」
猿田はそう言うと再び歩みを進めた。
「あれ? いつもより光る時間が長い」
俺の一言に猿田も足を止めた。
今まで何度もスライムが発生する瞬間は見てきたが、これほどまでに光り続けることは無かった。
「ん? なんだ?」
猿田(さるた)は異変に気づいたのか一瞬にして戦闘服へとチェンジした。
黒い制服がまばゆく光ったかと思うと黄金の鎧へとかわった。
目の前に現れたのはスライムではなかった。
――――――――――――――――――――
【レッドドラゴン】
・討伐推奨レベル:60
・スキル:火炎 口から高温の炎をはく
――――――――――――――――――――
「ヒサシ! お前は弱いんだから下がってろ。
コイツはオレの獲物だ」
俺と猿田の前に現れたのはレッドドラゴン。
大きくはねを広げ雄叫びをあげる。
金網は一瞬にして吹き飛び辺りを熱風が襲う。
レッドドラゴンが猿田へ向けて尻尾を放った。
「ぐわあああ!」
猿田は軽く吹っ飛ばされた。
猿田は公園のトイレの壁にぶつかり、破壊された瓦礫にうもれた。
「うううぅぅ」
苦しそうに猿田は瓦礫の中から俺の方を見ている。
「ヒサシ……。逃……げろ。お前みたいな最弱野郎ではかなわない……」
猿田はこの後におよんで俺の事を馬鹿にしている。
しかし、見殺しにするわけにもいかない。
幸いな事に周囲には誰も居ない。
「仕方ない。やるしか無いか……」
「お、おい……。 な、なに……言ってん……だ!」
俺がつぶやいたのが聞こえたのか猿田が瓦礫に埋もれたまま必死に叫んだ。
「すぐに終わる」
俺は猿田にそう言うと特殊スキルを発動させた。
斬撃によりレッドドラゴンの首は吹っ飛び、巨大な青い光となり霧散した。
勝利に要した時間は100分の1秒ほど。
思ったより時間が、かかった。
「えっ……」
猿田は俺の方を見つめたまま呆然としている。
それはそうだろう。
今から3ヶ月ほど前、高校2年最後の日、クラス分け試験で最低評価だった俺。
しかもレベル1のままの俺が一瞬にしてレッドドラゴンを倒してしまったのだ。
だが俺だって自分の力を知ったのは最近だ。
俺のスキルは最悪のものだったのだから……。
この3ヶ月間、悔しく、そして絶望しかなかった。
3ヶ月前のあの日の事は今でも忘れられない。
---
「あー。今日は、いよいよ高校2年最後の日、
そしてクラス分け試験の日でもある」
クラス担任のヨレヨレのスーツを着た先生がダルそうに話す。
俺を含め32名の生徒は慣れっこで静かに話を聞いている。
「この試験によりスキルが判明し高校3年のクラスが決まる。春休みあけの運命が今日決まるというわけです」
最高ランクのSクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラスと続いて最底辺のUクラス。
CからUと飛ぶのが意味しているようにUクラスは戦力外と言ってもいい。
Sクラスは無理でも、贅沢は言わないからBクラスには入りたい。
高校1年から、これまで基礎体力と戦闘の訓練をつんできた。
担任の先生が話を続ける。
「クラス分け試験は、初の魔物との戦闘の日でもある。
相手は最弱の魔物であるスライム。
唯一の攻撃方法である体当たりは猫が勢いよくぶつかってくる程度で死ぬ事は無い。これまで怪我をした者も居ない。しかし、油断大敵。気をつけるように」
スライムは、小さな子どもやお年寄りには脅威となることもあるが一般的な高校生なら恐れる事は無い。
しかし、この最弱の魔物を倒すことにより経験値が1手に入りレベルが0から1へと上がる。
ステータス持ちのレベルアップ可能な人類となる。
そして、個人に固有のスキルを手に入れることができるのだ。
固有スキルは炎の魔法のようなもの。氷の魔法。珍しいものだと雷や光なんてのもあるらしい。
単純に力がアップしたり、体が硬質化するなんてのもある。
固有スキルは個人により異なり同じ炎の魔法のように見えても火炎放射器のように炎を手から発するものから、炎の塊をボールのように飛ばすものまで様々だ。
「それでは一旦休憩。30分後に学校の前の前の公園に集まること、
試験の指導は例年どおり自衛軍大将の監督下で行われます」
担任の先生はそう言うと教室から出ていった。
15年ほど前に発生した異世界パンデミック
街中に突如発生した異世界の建物や魔物は、大きな被害をもたらした。
それと同時に人類はレベルアップシステムとスキルを手に入れたのだ。
「ヒサシ君。緊張してるの?」
やわらかく心地すらよい声は間違えることはない。
胸をふくらませ、ふりむくとミキが居た。
「いや、ちょっと考えごとしてただけ」
「そっか。わたしは少し怖くて……」
月読(つきよみ)ミキは家が近所だったこともあり小学校からずっと同じクラスだ。
細身で色白で、けっして体力がある方だとは言えない。
誰もが守りたくなるような女の子だ。
「大丈夫! スライムなんて小さな猫みたいなものらしいし、これまで誰も怪我すらしたことないらしいよ」
「そ、そうよね……」
ミキは微笑んだが不安そうだ。
「詳しい仕組みは未だに未解明だけどレベルが1になるだけでスキルが手に入り身体能力は格段に上がるらしい。
人類の限界と言われるレベル40。
日本でも数名しか居ないレベル40に達すると自動車にはねられても怪我もしないらしいぞ。
それにレベル1で手に入られるスキルは魔法もあるらしい。
俺は楽しみだよ!」
「うん! なんだか元気出てきた」
ミキから不安な表情は消えていた。
異世界パンデミックの被害でいつまでもクヨクヨはしていられない。
俺は1日も早くレベル1になりスキルを手に入れ発生する魔物を討伐しダンジョンを攻略したかった。
そうすれば報酬も得られるし母さんの助けにもなる。
異世界パンデミック
異世界パンデミック
もしくは、それ以降に生まれた者にだけがレベルアップしスキルを得られた。
俺は恩恵の無い母さんを守り生活を支えるためにも今日のこの日を待ち望んでいた。
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天野(あまの) ヒサシ 17歳 男 レベル:0
*初戦闘で勝利することによりレベル1へとアップする。
HP:5/5 MP:0/0
攻撃力:2
耐久力:1
速 度:1
知 性:1
精神力:1
幸 運:2
スキル:なし
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