4.雨宿り
雨宿り
「嘘でしょ」
手のひらで弾かれた水滴を見て結花はそう呟いた。空はまだ昼間だというのに薄暗く、いつも空を飛んでいる鳥たちも今日はいなかった。
雨が降り出した。残念なことにこのスーツは頭だけが外に出ている。それ以外の部分はスーツが全て弾いてくれているが、頭だけはずぶ濡れになった。まあ、こうなっているのは頭部を守ってくれるヘルメットをつけていない結花が悪いのだが。
今から帰ってもいいが、かなり遠くまできてしまっている。しかも、もうすぐこの西側地域の調査が終了するのだ。明日するのは正直めんどくさい。
結花は数分迷ったあと調査を続けることに決めた。雨の中帰るのが面倒だったからだ。
近くの一般住宅だったであろう建物の中に入って雨がやむまで待つことにした。やまなければここで一泊しても構わなかった。明日ここから船を往復すると調査報告が予定よりも遅れてしまう。それは避けたかった。
「おじゃまします」
たとえ人がいなかったとしても言わなければならない。そうでなければ、ここで暮らしていた人に申し訳ない。
つい最近はかつて人が生活していたであろう跡を見ても辛くなったりすることはなくなった。
家の内部は外と比べると自然にのまれてはいなかった。だが窓の役割だったのであろう透明な板は割れ、床には木の葉が落ちていた。一部の部屋は木が壁を破壊していたが大部分は残っていた。
だが、いつかこの家も無くなってしまあだろう。だから私が記録に残さなければならない。
そう思っていると結花はリビングがあったであろう場所にたどり着いた。たどり着いたと言っても直線距離はあまり長くない。しかし、崩れていた瓦礫等が廊下を塞いでいることもあったからか、結花には「たどり着いた」だった。
ふと床を見ると一枚の絵が落ちていた。横には絵を立てるためにあったであろう板も落ちていた。
かなり劣化していたもののなにの絵かはわかった。絵はとても精巧に作られていた。
「人の絵かな?でもこんなにリアルな絵なんて描けるものかな?」
絵には2人の少年とその親らしい人が描かれていた。後ろにあるのは公園だろうか?休日なのだろう、子連れが多い。
昔は写真という技術があり、それを使えばこのような絵を作り出すことができるのかもしれないが、結花は写真がどのようなものなのか知らなかった。
とりあえず調査報告で絵を送るためにはプリントしなければならない。結花は絵をスキャンした後、発見物を入れるためのポケットに絵を入れた。
雨も止んできたようで、引き続き調査を続けた。他に何かが見つかるわけでもなく、西側地域の調査は終わった。
結花は住宅で発見した絵をもう一度取り出した。この都市ではこのような場所を見たことがない。もうこの公園は残っていないかもしれない。だが、別の都市にあるのならばまだ残っているかもしれない。
母星へ送れるデータは今回の調査ではあまり手に入れることができなかった。母星にはこの絵で我慢してもらおう。それと、もう一つ結花にはすることがあった。
「ドローンを飛ばすのはこのボタンでいいんだよね……」
巨大樹周辺は上空からのスキャンではわからないことが多かった。他にも、なにか危険な生物がすんでいるかもしれない。前回スーツを着なかったことで結花はマニュアルに従うことは大事だと感じた。しかも前回と違い、猛獣などに会敵したら命にかかわる。そういう意味でもスキャンできなかった場所は重点的にみるべきである。
ドローンを飛ばしてから10分ほどで巨大樹周辺についた。今まで調査してきた地域よりも自然が都市を侵食していた。そんな中、一つの看板が結花の目に留まった。
「ニュートーキョー?この都市の名前かな?」
そういえば考えたことがなかった。結花がこれから調査する都市には、何かしらの名前がついていたはずなのだ。
「new」という言葉の意味は「新しい」だ。つまり新しい「トーキョー」ということ。…「トーキョー」ってなに?
そんな疑問を抱えながら結花はドローンでの周辺捜査を再開した。
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