3.第1回調査報告-2


 「調子に乗りすぎた…」


 結花は息をきらしながらそう呟いた。

 連日の調査に急なランニングによる体力の消耗+割と重い鍋。そして…


 「なんで私スーツ着てないんだ?」


 いや、まさかここまでスーツが運動能力を支えているとは思わないだろう。なにが「体のラインがわかりやすくて恥ずかしい〜♡」だ、死んでしまえ、私。

 さらに、いやそらそうだが、売店にはなにもなかった。中は何かに荒らされた形跡があり、火を起こす道具どころか商品すらない。


 「体力失って帰るだけって、なにしてんだろ、私」


 実際には収穫があった。

 ・調査中に見つけた販売店らしき場所には

  何もない=他の今まで見つけてきた建物

  の中にも多分なにもない

 ・この星ではカップ麺をほぼ食べれない

 ・調子にのって走ってはいけない

 ・スーツなしで出歩いてはいけない。

         ⬇︎

       運動しろ‼︎

 という、素っっっ晴らしい教訓だけだが。

 明日からは運動をしよう。そう決意を固めたところで、3時間ほどかけた久しぶりの運動は終了した。

 部屋に入って帰っている途中に消した音楽をつけなおし、鍋を置いて連絡機器の前に座り電源をつける。ふと机の右端を見ると、置いていったカップヌードルシーフード味がこちらを見ていた。


 「お前のせいですごい疲れたんだからな」


 もうこのカップヌードルは食べられないだろう。しかし、結花はこれに少しだが家族や母星を感じていた。


 「そういえば、初めて食べたのもシーフードだっけ」


 結花の家は地域でもたぐまれなる貧乏さをほこっていた。近所の人達がおさがりをくれたり、助けてくれたから飢えることはなかったが、父は朝から晩までずっと仕事で家におらず母は病気で入院と退院を繰り返していたから私たち兄弟はあまり両親との生活というものをしていない。兄弟の中で1番年が高かった私はすぐに就職するという道を選んだ。その時選んだのが家族や故郷から離れて行う調査員だった。

 両親から愛を注がれなかったわけではない。2人にはたくさんのものを与えられた。だからこそ給与が良く、家族の生活を支えることができるこの仕事を選んだのだ。

 母星では海産物の大量生産に成功し、カップヌードルシーフード味がとても安く売られていた。時間がなく夕食を作れないときは、よく近所の売店でこれを買って食べていた。

 そう考えると、これは自分の思い出がつまっている品なわけだ。ならば捨てるのも気がひける。


 「これはこのままとっておこう」


 結花は立ち上がって横にある棚にカップ麺を置くと、シャワーを浴びてから連絡機器の前に座り直した。

 連絡機器にはひたすら文字を打ち込んで転送するだけである。だが、今まで外に出続けていたインドア派の結花にとっては、この単調な作業は待ち望んでいたことだった。

 もともと文章を書くのが嫌いではなかったことも影響したのか、報告はすぐに終了した。

 第1回調査報告はこれで終わりだが、この都市の調査が終わるわけではない。


 「西部の調査が終わったら、ようやく巨大樹の調査か」


 光る画面を前に結花はそう呟いた。


 

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