2.第1回調査報告-1
家は貧乏だったけど、両親が頑張って私たち兄弟を育ててくれた。
私は内交的で、いつも学校では本を読むか、音楽を聴くかしかしていなかった。
だけど、家族はそんな私を受け入れてくれたし、数少ない友人も私を助けてくれた。
今、故郷はどうなっているだろう。家族や友人は元気に暮らしているだろうか?
目覚ましの音で目が覚めた。
またあの夢を見た。故郷の夢だ。この夢を見ると憂鬱な気分になる事は知っているのに、何度もこの夢を見てしまう。
家族や友人はもう死んでいるだろう。多分だが、出発してから100年以上はたっている。
いつも通り歯を磨き、朝食を食べ、また歯を磨き、制服に着替えた。家が貧乏だったから、普段は制服で生活していた。だから、制服で生活することは慣れているし、別に嫌いでもない。あのスーツのほうが数倍嫌いだが、今日はあの忌々しいスーツは着なくていい。
今日は待ちに待った調査報告の日だ。
正直言って、外に出るのはあまり好きではない。母星にいたときは、一日中家にいることもザラだった。この調査の調査員として立候補したのはお金が欲しかっただけで、特にそれ以外の理由はない。
だからこそ、今日の調査報告は外に出る必要がなく、結花にとっては待ち望んでいた日であった。
「今日は音楽を聴きながら調査報告を書こう!あっ、カップ麺を食べながら書こうかな。つい最近、健康的すぎて食事も飽きてきてるんだよねー」
最善を尽くすためには最高…、最高か?まあ、結花にとっては最高の環境へと変化させねばなるまい。
結花はいつも使っているヘッドフォンをとると、慣れた手つきで頭に装着した。耳には昔の「チキュウ」で流行った曲が流れだした。人工的に作られた楽器の音と声が結花の心を躍らせる。
続いて結花はキッチンへと向かった。
「よかった、バレてなかったみたい」
大量の食料や缶詰をかき分けて取り出したのは、カップヌードルシーフード味だった。こんなものを持ってきて良いわけがないが、今この星には結花1人だけ。バレなければ犯罪ではないのだよ、諸君。
取り出したものの、お湯をどこで沸かそう。この船の中にはお湯を沸かすことができるような道具はなにもない。
「よし、外で火を焚いて沸かそう!そこの鍋と、火を起こせる道具は…外の売店みたいなところに残ってるかも!」
いったいなにが彼女をここまで動かすのか。心なしか、いつもよりも結花の独り言の数も増えているように思える。
結花はさっそく外に出た。安全を考えるとスーツを着たほうがいいのだろうが、今日くらいはいいだろう。
いつも歩いている樹の根の上はスーツがないと登れない。しょうがないので舗装されている道路の上を歩くことにした。
舗装されているといっても小さな草がコンクリートを砕いて生えてきている。だが、それでも結花はかすかに残る文明の跡に故郷を思い出してしまった。ホームシックというやつだろうか。必死に明るく振る舞うことで隠していた憂鬱さが、また溢れ出してきた。つい最近はこんなことも多い気がする。
故郷にいつ帰れるのかわからない。だが、いつかは帰る日が来るのだろう。その時にはこの星を恋しく思えるだろうか?もう一度ここに立ちたいと思えるだろうか?
そんな想いと鍋を持って結花は売店の方へと走りだした。
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