[生天身]
「お話、進みました?」
そう言いながら盆に3人分の湯呑みを乗せた牧澤めらりが部屋に戻ってきた。
「まあ本題はここからというところだ」
「そうですか。ではお茶を」
緑茶の良い香りが少しだけ緊張の解けない気持ちを和らげてくれる気がした。
「ありがとうございます」
「あら表情がこわばってるわね、お父様が恐い?」
「いえ・・・・」
「では私も少しだけ席を外そう。二人で話しなさい」
何か含みのあるような表情で言い、
「大丈夫? 威圧感ありすぎた?」
「いえ・・・・あの、牧澤さん」
「めらり、でいいわ」
「あ・・・・ではあの、めらりさん」
「何?」
「お父様の家系が我哭守村(がなもむら)から断籍されたということ・・・・知ってたんですか?」
直球すぎる問いが私の口をついて出た。
「え、ああまあ・・・・何故それを?」
「実は私、先ほどお会いした瞬間にどこかでお見かけしたような気がして・・・・で、私がそう感じたことを見抜いたお父様から写真を見せられまして──」
「それで思い出した、と?」
「はい」
「そう・・・・正直言って確かに私も知っていたし、古い写真も何枚か見せられたことはある」
「では、
「生天身・・・・」
一瞬、めらりの目がわずかに揺れた。
「知って・・・・ましたよね?」
「そうね・・・・知ってたわ」
「私が──」
言いかけた瞬間、ハッ!? とする感覚が私を襲った。
そうだ、あの[緊急事態ヘルパーズ]のマンションから連れ出された時、めらりは『
そして『
知りすぎている、牧澤めらりは何もかも。
まさか──
「どうしたの?」
たぶん今、私の顔色が変わったのだろう。
めらりが覗き込むようにこちらを見ている。
まさか・・・・まさかすべてが仕組まれた罠だったとしたら?
あの病院での唐突な登場もマンションへのふいの訪問もこの屋敷に連れ込むための周到な罠だったとしたら?
出し抜いたと上手くやったと思っても俯瞰で見れば釈迦の
だったら──だったらどうしよう!
「もしかして・・・・疑ってる?」
「!」
「私たち親子までもが、あなた、つまり
めらりが私の心中の核心を突いてきた。
見抜かれ過ぎている。
生天身──それは生まれる前からの
自由意志などない。
拒否権もない。
ある目的のためにひたすら"村"の呪縛に受け身となるべき存在。
表記が"町"に変わっても何ひとつ変わらない、変える必然性など誰も微塵も感じていない──そんな村、
「だったら、こんな回りくどいことはしないわ。さっきも言ったようにあのマンション前に現れた追手に引き渡してしまえば良かっただけのこと。そうじゃない?」
確かに。
そう言われればその通りには思える。
ならばやはり信じて・・・・いいのだろうか。
私は曖昧な表情になった。
するとめらりはこちらを凝視し、次の瞬間、秘すべき本質を言い放った。
「あなたの目、やっぱり独特。国の
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