[追手!]
「これ着けて」
「え?」
「左手首。ほら早く」
「な・・・・何で」
「説明はあと。急いで!」
「・・・・」
すぐにここを出ろ、と言われ、半ば強引ににエントランスへと引っ張り出されて来たところで牧澤めらりは私の手にブレスレットを握らせた。
光沢のある黒い石が連なっている。
いわゆるパワーストーンという物だろうか?
とりあえず言われた左手首にそれを着けた。
「あの──」
「しっ!」
「??」
「ちょっと下がって」
「え・・・・」
「私から離れて奥に下がってて」
ふいにそう言うと牧澤めらりはエントランスを出て、すぐ横にある大きな観葉植物の陰に身を潜めスマホを構えた。
何をしているのか──
そしてほんの1分ほどで足早に私の所に戻るなり真顔で言った。
「もう来てる。見て」
「?」
差し出されたスマホの画面にマンション前の道路と向かい側の建物が写っている。
一階が不動産屋になっている変哲もない小さなビル。
「分からない? ほら、よく見て」
画面の何が問題なのか分からず見つめる私に追い打ちを掛けるようにそう言いながら、彼女は画像を拡大させた。
「ここ!」
見切れるギリギリに、停車中の黒い車の前面フロントガラスの辺りまでが写っている。
最大まで拡大された運転席、そして助手席。
そこに──
「あっ」
全身が
一瞬にして感情が凍りつく。
(な・・・・何で・・・・まさかそんな・・・・)
深紅の面。
助手席の"者"は顔面を"それ"で覆っていた。
そして明らかにマンションに顔を向けている。
「
「・・・・」
無言で
言葉は出なかった。
あれを、あの"面"を着けているということの意味、着けて現れた者の意図。
絶望という名の冷水を浴びせかけられたかのように、私は悪寒に震えしゃがみ込んだ。
「しっかりして。とりあえず車はいなくなったから出ましょう」
「で、でも・・・・」
「大丈夫。そのブレスレットで一時的な
腕をつかまれ
「ほら、しっかり」
「あの」
「何?」
「面のこと・・・・どうして──」
身体に力が入らないこんな状況下、不思議なことにその疑問が口をついて出た。
「知ってるか? ってこと?」
「・・・・」
再び無言で頷く私。
「見たことがあるから」
「え? どこで・・・・ですか?」
「父の家で」
「お父様?? それって──」
「会えば分かるわ。これからあなたを連れて行くのもその家だから」
「?!」
何? 何がどうなって??
一体どういう──
恐怖と疲労と混乱の極み。
思考困難のズタボロ。
今、私はまさにそれだった。
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