古本市へ
彼女の家へ引っ越すことが決まり、彼的には少しほっとしたようだ。
私にとっては不安と心配しかない相手だが、今の彼が自力で立とうとするには彼女が必要なようだ。
私が彼を家に連れてきてすぐに私は彼に
「外を見てみ」とLINEしたことがある。
外がすごい夕焼けで真っ赤になっていた日だ。
彼からの返事は「もう帰ってくるの?どのへん?」だった。
その時の彼には目の前の夕焼けは全く目に入らず、マンションの個室から私の帰りを待ち道を見ていたようだ。
この出来事は彼の気持ちをよく表していると思う。
離婚してすぐにまだ幼い弟の面倒を見ながら私の帰りを待っていたころも彼は「どのへん?もうすぐ?」とよく聞いてきていた。
不安だったりさみしかったりするとこの言葉が出るものだと思う。
昨日私は仕事帰りに同じことを彼に聞いた。
「すげーきれいな夕焼けやで」そう言って写真を撮って送ってくれた。
私は少し泣きそうになった。
私にとったら不安でしかない彼女の家への引っ越しも、彼の目にはちゃんと前を見て私を待つだけの子ではなくなっていた。
今では私が出勤すると部屋の掃除をし、洗濯をしてくれている。
夕飯なに食べたい?と聞いてくることもある。
引っ越し先での就職先も探し始めて、面接の予定も組んでいた。
自分で動きだしている。うれしいけれど不安だしさみしさもある。
今日は仕事帰りに職場近くの古本市に行かないかと誘った。
彼は来てくれて、1冊の本を選んで買っていた。
うつ状態後、用事以外での彼との初のおでかけだ。
あまり人混みを好まない彼だが、大勢の人の中で1冊の本を選んでいた。
読み切るのかどうかもわからない。
でもあと少しの彼の休憩期間になにか得られるものがあればいいと本当に思う。
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