第5話 死

「お姉さま、どうしたのです?」

「昨夜、深い闇を感じたのです」


 なるほど、スール契約はそこまでわかるのか。


「はい、お姉さま、私は闇に呑まれそうになりました」


 私はそれが当たり前の様に言うと。お姉さまはドン引きしていた。


「あれ?『魔女狩り』は生死の狭間に生きる存在ではなくて?」

「えぇ、A級以上の魔女は危険だわ、でも、十分に課金して強くすれば簡単に倒せてよ」

「へーお姉さまは意外と慎重なのですね」

「話をそらさないで、闇に触れてはダメです」

「はーい、でも、この闇落ちの快感辞められるかしら」

「うん?時間だわ」


 ホームルームの時間が来たのだ、お姉さまはすたすたと教室を出る。


 私が席に戻ろうとすると。


「ねえ、今の草津レイナさまではなくて?」

「そうよ」


 クラスメイトに声をかけられる。それは興奮した様子であった。レイナお姉さまは人気者なのか。文武両道に容姿端麗、完璧なお嬢様なのだ。


 その完璧さからファンもの多く、本来なら私とは違う世界の人であった。そう、闇の住人である私とは関係ないのであった。


 その日の放課後、私は旧喫煙室にあるギルド『スクールマスター』の部室に来ていた。入口から入ると一番に目が止まったのは萌季さんがケガをしていたのだ。


「ふーう、萌季にも困ったものだ」


 レイナお姉さまが腕を組み不機嫌でいる。


「魔女ですか?」


「いや、違う、自転車で転んだのだ。大体、魔女に喰われた被害者が交通事故として処理されているのだ。洒落にならないだろうが」


お姉さまの説明により真相はわかった。


「子供の飛び出しとはいえ、確かに私も不注意でした」


 それで、ギルド内が何故こんなに暗いかと言うと。萌季さんの為に魔女を狩ろうと言うのです。元々のギルドとして集まっているのは効率良く魔女を狩る為です。不慮の事故で魔女を狩るのは皆、面白くないのです


「萌季のライフポイントが下がっているのだ、皆でC級魔女を狩ろう」


 ギルマスであるレイナお姉さまが話をまとめようとする。


「本当にすまぬ」

「とにかく、今夜、公園に集合だ」


 会議が終わり解散すると。真奈さんが椅子を蹴っ飛ばす。面倒臭い性格の真奈さんだ、椅子を蹴っ飛ばす程度で済んだのだ。ここは大きな心でいよう。


 そして夜、私は公園に着いた。辺りを見回すと、右手がギブス姿の萌季さんは一番に来ていた。


「こんばんは」

「来てくれて、ありがとう」

「いえいえです」


 今宵は月の光は出ておらす闇だけが支配する世界であった。この闇は私には濃すぎる。本物の魔女が息づく闇夜であった。それから、しばらく待つとレイナお姉さまが現れる。一番、最後に真奈さんがやってくる。


「真奈、早速だが魔女は探知できたか?」

「スマホのアプリと連動させると南の工場跡地です」


 真奈さんは魔女の探知能力を得意としている。魔女の鼓動を感じてお姉さまに進言するのであった。


「では、出発だ」


 本来、C級魔女はチームで狩る事は無く。害の少ないC級魔女は野放しで、チームで狩るのはA級魔女である。


 一番危険なS級魔女は特別な理由で魔女として生まれた存在で、街を滅ぼすと言われている。


 これでも、私は『魔女狩り』に成り、色々と研究しているのだ。そして、南の廃工場に着くと、私の『霧雨』も鼓動して魔女の気配を感じる。


「数的にも絶対有利だ、逃がすことなく確実に狩るぞ」


 それぞれはナイフを抜き魔女を探す。萌季さんはギブスの右手に代わりに左手にナイフを持つが前線からは一歩引くのであった。


 戦闘が開始されると魔女は逃げる作戦を実行する。


「逃すな!」


 私と真奈さんにレイナお姉さまが魔女を包囲する。


『ぎやややや』


 魔女は簡単に狩られ、お姉さまがとどめをさす。


「皆、お疲れさま。無事に魔女を狩る事ができた」


 そのまま、廃工場で解散になり。私は闇夜を独りで歩く。


『血が……ホ、シ、イ』


 私の中の闇が血肉を欲していた。


『ホ、シ、イ……』


 これが闇に呑まれる気持ちなの。私は魔女の生まれる理由を考えていた。


 いかん、ビシビシと頬を叩くと私は家路を急いだ。


 そして、廃工場で魔女を狩った朝方の事である。眠れない、私の闇が疼く。それは闇の湖に沈んで行くイメージであった。仕方がない、スマホのゲームで時間を潰すのであった。眠くなってきた。しかし、寝落ち寸前の時に着信がある。


『こちら、帝都銀行の者です』


 また、帝都銀行からの電話だ、今回の魔女狩りのポイントは全て萌季さんに使う約束であった。


『よろしいので……?これは失礼、私情に関与する権利は有りませんでした』

『はい、今回のポイインとは萌季さんに全てあげるわ』

『かしこまりました。『加藤 萌季』様にポイントを送信します。それでは失礼します』

『あ!待って』

『何でしょうか?』

『魔女の生まれる理由を知りたいのですが、ご存じで?』

『それは、答えかねます』

『何故?』

『私共はビジネスです。『魔女狩り』様の私情など関係ございません』

『そうか……』

『では、失礼します』


 電話が切れると寂しく感じる。誰でもいいから話したい気分だ。それからスマホを見ていると。


……。


 眠気が薄れ、寝そこねてしまった。私は、もう一度、魔女の生まれる理由を考えていた。魔女は人の肉を喰らい社会に混沌をもたらす存在だ。C級魔女はその弱さから人の残留思念と考えられる。


 では、S級の魔女はいったい何処からくるのだ?


 私は朝日が昇る事を確認してレイナお姉さまにメッセージを送る。


『魔女の生まれる理由は知っていますか?』


 数分待つと返事が返ってくる。


『そんな事は貴女が知っていても仕方がないわ』


 お姉さまは知っている。何故隠すのかは疑問が残るが。S級魔女が生まれる理由を知っている。それから登校時間になると、私は渋々支度を始める。


 学校に行かないと。


***


 私はA級魔女にトドメをさされようとしていた。


「薫ちゃん、ライフポイントが尽きる。マネーを削れ」

「嫌です、こう見えて私は親孝行なのです。今、マネーを削れば破産です」

「薫ちゃん!!!!」


 ばっ、夢?


 それは私がA級魔女によって死ぬ夢であった。そう、お姉さまの前で死ぬ夢であった。


「笠崎、いい夢は観れたか?」


 今朝の徹夜で授業中に寝てしまったのだ。


「えへへへへ」

「誤魔化してもダメだ」

「はーい」


 ふ~う、仮眠したおかげで少しは気分が良くなった。それにしても、リアルな夢であった。


 うん?


『霧雨』が鼓動する。


 魔女か?いや、違う『霧雨』のミセタ、予知夢であった。


『霧雨』は私が名前をつけたナイフである。


 それは血の契約に近いらしい。私は息を呑み、長考させるモノであった。


 死ぬ予知夢か……。


 レイナお姉さまには内緒にしておこう。

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