第4話 闇の住人

 翌朝、私は旧喫煙室に向かった『スクールマスター』の面子に会う為だ。室内に入ると真奈さんが独りでスマホをいじっていた。


「おはようございます」

「ああ、おはよう」


 真奈さんと軽い挨拶を交わすと。突然、立ち上がり、こちらに向かってくる。


「魔女を狩ったのか?」

「は、はい」

「で、いくら稼いだ?」


 ……。


「ふ、その様子だとライフポイントに使ったのか?」


 私は沈黙で答えた。それを察したのか真奈さんは部屋の奥からカステラを持ってくる。


 どうやら、同情されたらしい。私は椅子に座り、真奈さんが持っているカステラを待っていると。真奈さんは二人分のカステラを自分で全部食べてしまう。こいつ面倒臭い。レイナお姉さまが言っていた通りだ。


「それでだ、魔女は強さのランクがS,A,B,Cクラスに分けられる。その様子だとCランクの魔女だな」

「何故、分かる?」

「課金して肉体強化していなく『霧雨』の力だけで倒しただろ?」

「なるほど」


 私が納得していると。真奈さんはコーラのペットボトルを用意して。私に手渡す。


「あ、ありがとうございます」

「160円だ」


 ホント面倒臭い性格だ、私は渋々お金を払う。


「おっと、ホームルームに遅れる」


 そう言い残して真奈さんは去って行く。

このまま、真奈さんの面倒臭い性格に付き合う事も終わりだ、私もホームルームに行こう。


 紫陽花の咲く季節であった。今日は蒸し暑く。教室の窓が開いていた。


うん?


 スクールバックに入っている『霧雨』が鼓動する。落ち着け、今は授業中だ。


 しかし、魔女は人を喰らう、放っておけない。


「先生、体調が悪いので保健室に行っていいですか?」

「あぁ、行っていいぞ」


 私は保健室に向かう事なく、校舎裏の茂みに向かう。そこは落ち葉貯めのある、木漏れ日の気持ちのいい場所であった。


 足音だ、誰か来る。


「薫ちゃんだね」


 レイナお姉さまであった。


「お姉さまもここに来ると、言う事はやはり魔女ですか?」

「いいえ違うわ、私が魔女の気配を出して薫ちゃんを試したの」

「試した?」

「そう」


 レイナお姉さまは難しい顔をしている。理由は簡単だ、魔女の気配がしてもレイナお姉さまに相談しなかったからだ。レイナお姉さまとスールの契約をして『スクールマスター』に所属しているのだ。


 個人プレイは厳禁なのだ。


「昨日の事は仕方ないわ、でも、C級の魔女で良かった。いえ、A級以上の魔女はまだ探知する能力はないか。それでも結果はライフポイントに振って生き延びた」


 これは、私は怒られているのか。基本、コミ障害の私は昔なら『霧雨』を叩きつけて『魔女狩り』を辞めていた。しかし、今は違う、レイナお姉さまの温もりが忘れられなかったからだ。謝るしかないのかと下を向いてグルグルと考えていると。


「ごめんなさい」


 口から出たのは謝罪の言葉であった。


「そう、それでいいの、スールの契約はそう言うモノなの」


 レイナお姉さまは私の頭をよしよしする。これが愛おしいとの気持ちなの……。


「さ、旧喫煙室でお茶でも飲みましょう」

「はい、お姉さま」


 二人で歩く校内の道のりは永遠に続けばと思うのであった。


 夜、私は外に出て近くの公園で月を待っていた。今日はまばらに雲がかかり月を隠していた。持っている、スクールバックの中には『霧雨』が入っているが例え魔女が現れても戦う事はない。それはレイナお姉さまとの約束であった。


 この闇、心地いい、私は包帯を左腕に巻き始める。ケガをした訳ではない。心が包帯を求めていたのだ。私は月を探しながら魔女の生まれる理由を考えていた。魔女は人の肉を喰らいこの世界の闇夜の住人だ。


 うん?


 星が見えてきた。これなら月も顔を見せてくれるだろう。数分待つと月が出てきた。私は左手に包帯を巻き終わると闇夜の月にかざす。


 ふふふふ。


 この気持ちは、とても快感だ。しかし、これでは完全に不審者だ。イヤ、構わない、職務質問を受けても殺せばいい。


 いかん、いかん、『魔女狩り』の力を一般人に向けてはならなない。私は誰も来ないうちに公園を後にするのであった。


 翌朝、目が覚めると左手に包帯をしていた。私は『霧雨』を使い器用に包帯をさばく。少し滲んだ血は何故か私の心を潤す。私は元から闇の世界の住人だ。学校に行くのが面倒臭く感じる。本当ならバンバン稼いで良い生活を送りたい。しかし、魔女狩りとしての力は余りにも無力であった。


 チャリン。お姉さまからメッセージが届く。


『きちんと登校するのよ』


 まるで、今の私を見ていたかの様なメッセージだ。ホント、優しいレイナお姉さま。お姉さまは血の契約を結んだので裏切る事はない。


 とにかく、朝食を食べよう。


 ダイニングキッチンに向かうと両親が死んだ目をしていた。働く事がよほど嫌らしい。私は両親に目を合わせることなく家を出る。


 高校に着くと真っ直ぐに教室に向かう。旧喫煙室に行っても真奈さんが居たら嫌だからだ。タダのコミ障害とも言える。そう、どちらがと聞かれると両方と言った方がいい。


 そんな事を考えながら教室の窓から外を眺めていると。レイナお姉さまが現れる。


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