第2話 地獄


「改めて、自己紹介するわ。私の名前は『草津 レイナ』です」

「レ、レ、レイナお姉さま。私は『笠崎 薫』です」

「ま、薫ちゃんは、緊張して可愛い子ね」

「は、はい」


 私は確かに緊張していた。今まで友達なるモノが居なかったからだ。親からはネグレクト気味に育てられてきたし。恋愛経験も無い。すると、レイナお姉さまが私の手を握る。


 それは温かく、私の緊張が解けるのであった。これが人の温もりなの……。


 私がこの新鮮な気持ちに戸惑っていると。


「本当に友達が居ないのね。安心して、私も『スクールマスター』以外の知り合いは少ないわ」


 ……これが、嬉しいと言う感情なのね。この気持ちに浸かっていると。何故、レイナお姉さまと出会えたのかと疑問に思う。


「レイナお姉さま、何故、私達は出会えたの?」


 すると、レイナお姉さまが難しい顔になる。


「この旧喫煙室はね、虚数空間なの。簡単に言えば『魔女狩り』しか入れないの。私とスールの契約をすれば、もう、戻れない。『魔女狩り』として生きていくしかない。それでもいいの?」

「絶対に元の生活は無くなるの?」

「いえ……後継者と契約する事で普通の人間に戻れるわ」


 その言葉の後もレイナお姉さまの手は、まだ、私の手を握っていた。


「迷いは消えたわ、私は『魔女狩り』になる」


 すると、レイナお姉さまは私から離れて更に真剣な目つきになる。


「スールの契約と言っても簡単なモノよ、私の血を呑むだけ」


 えええええ、血を呑む?!


「ゴメンなさい、驚かせてしまったわね。こうして指に針を刺してと……」


 驚いた私に、レイナお姉さまは少し砕けた表情になり、自分の指に針を刺して血を滲ませる。


 これは血の契約だ。素人の私でもわかる。古来より血の契約は最も重い契約の一つだ。


「こ、これを舐めるのね」


 私はレイナお姉さまの指を掴むと口に向ける。


 うげ!


 美味しモノではない。


「はい、契約成立。これで薫ちゃんは私の妹よ」


 血の契約か……。


 いかん、ふらふらしてきた。うん?女子二人がこちらを見ている。そう言えば『スクールマスター』の他のメンバーも紹介してもらわないと。


「あのーこの小さくて金髪の方と黒髪ロングの方は?」

「あ、この面倒臭い金髪が『永川 真奈』で、黒いのが『加藤 萌季』よ」

「よろしくお願いします」


 返事は無く、それぞれスマホ操作に戻る。コミ障害なのか?


 ここは先輩方だ、我慢しよう。


***


 校舎からバス停まで歩く間の事である。私はお節介なお姉さまの事を考えていた。あのレイナお姉さまと血の契約を交わした。でも、私は独りだ、これからも独りだ。スクールバックの中をごそごそとして、スマホを取り出す。そして、ワイヤレスイヤホンを身に着けて、音楽を再生する。


 曲名は『地獄』であった。


 ワイヤレスイヤホンからパイプオルガンの音が聴こえてくる。独りで死んでいく。私は先ほどの『魔女狩り』の儀式を思い出す。


 儀式と言っても簡単なモノであった。刃の長さが十センチ程度の普通ナイフを渡されるだけであった。


「ナイフの名前は自分で付けていいわよ」


 レイナお姉さまはキリリとした眼差しでいる。


「『霧雨』でいい?」

「構わないわ」


 見た目は普通のナイフの『霧雨』をスクールバックにしまう。これで『魔女狩り』の仲間入り。


 私の気分は地獄だ。ここが地獄な訳ではなく。気分が地獄なのだ。目を瞑るとスクールバックから『霧雨』の鼓動が聞こえる。


 地獄か……。


「レイナお姉さま、サヨウナラ」


 スールの契約を交わしたのに、今日の別れの挨拶が簡単なモノで、終わったのが印象的であった。私は旧喫煙室から出るとバス停に向かう。


 ここで回想は終わりである。


 音楽を聴きながらバス停で待っていると何事も無くバスに乗る。これが新しい日常なのかと実感するのであった。

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