焼成!

「ん?あの白っぽい岩か?」


「そう。」


 キャスカは森の入り口のはずれにある白い岩を指差す。


 私が見る限り、あれはどこにでもあるような石灰岩の気がするけども、何の為に使うのだろうか。


「あれって石灰岩だろ?砕いてどうするんだ?」


「細かく砕いた後に焼く。」


 石灰石を砕いて焼いたらできる物は生石灰。生石灰が持つ強いアルカリ性は消毒どころか肌を溶かすほどなので扱い方には気を付けないといけない。


 まあ生石灰自体は色々な使い道があるけども何に使うのだろうか?道標?


「キャスカ、生石灰なんて何に使うの?道標代わりにでも使うの?」


「それもあるけど、今回の探索では火を使いたくないんだよ。」


「なんで?ミディの火炎魔法でちょちょいのちょいでしょ?」


「ちょちょいのちょいって、ちょっと古くないか?まあそれは置いておいて、モンスターに気付かれたくないというのもある。だがそれ以上に・・・。」


「それ以上に?」


「あれだろ?他の奴らが今入ってるんだろ?」


「そうだ。あまり評判の良くない奴らが入ってる。」


 冒険者と言っても玉石混交、王家の勅命を受けて万全の装備と人員を以て探検に入る者もいれば山賊崩れのような盗賊などが追手から逃れる為、更には探検する者を襲い装備やその身をどうにかしてしまう、そのような者たちも居る。


 そんなところに私達がたった三人で森に潜り込むのだから、変に気付かれるわけにはいかない事は納得できる。


 でも、日付ずらせばよかったんじゃない?というのは野暮だろうか。


「それっていつ情報入ったの?」


「昨日。配達頼んでるおっさんいるだろ?あの人から教えてもらった。」


「あの人、色々な事知ってるわね・・・。」


「兎に角、さっさと生石灰作って中に入ろう。ミディ、石灰石砕いて。」


「はいよ。」


 ミディは手際良く、且つ大きな音が出ないように石目に沿って丁寧に石灰岩を切り分ける。


 更にその破片を半分、半分と砕き、遂には指先程の大きさまでになる。


「これぐらい砕けばいいか?キャスカ。」


「ああいいぞ。火炎魔法で、火力強めで一気に焼いてくれ。」


 キャスカのその言葉を聞いたミディは目を閉じながら小さく呟く。魔法を唱えるために。


 指先に火をともす程度の魔法であれば特段難しい呪文を唱えたりその準備をする必要も無いが、石灰石を生石灰にする程の強力な火力が必要となるのであればそれは別の話。


(石灰石を生石灰にするためには900度~1200度程で焼成しなければならない。)


 砕いた石灰石の破片を一か所に纏め、そこにミディは火炎魔法を放つ。


 火炎魔法とは言うが、その威力たるや火炎魔法というよりは光線魔法とも言い換えたほうが良いだろうか。


 ミディの手のひらから放たれる魔法は一筋の光柱となって、石灰岩の破片を煙すら出す事を許さない程の火力で焼き上げる。


 その魔法の威力たるや、石灰石の破片が布かれた地面は既に深紅に染まり、更に水分が加えられれば遂にはマグマになるのではないかというほどに赤熱する。


 たった十数秒の焼成であるにも関わらず、ミディが魔法を止める頃には石灰の破片は元の石灰岩よりもさらに白く、純白に近い色に変化していた。


 農業用や工業用の生石灰の焼成は普通数日掛りで作るのが普通なのだけれど、ミディはそれをたった十数秒でやってのけた。


「キャスカ、焼き上がったよ。多分これで焼成は出来たはず。」


「ミディ有難う。ついでにすぐ持ち運べるように冷やせるか?水分は使わずに。」


「熱エネルギーの除去だな。今やる。」


 またミディは小さく呟き、赤色する地面に置かれた生石灰たちに向かって手をかざす。


 今度は特段強烈な光は発生しなかったものの、その地面からは明るく光る深紅の色がどんどん失われ、遂にはそばの地面と同じ色と変わらなくなる。


「まあこんなもんだろ。袋あるか?」


 魔法、やっぱり便利だなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る