チーズフォンデュ・・・
ミディはしばらくの間極貧生活を送ることが確定したので、げっそりとやせ細った顔つきになる。
「うう、しばらく道草を食う生活・・・。」
「ミディは余計な事をしなければお金貯まるのに。毎度毎度余計な事するからよ。」
「水と・・・草・・・。」
ミディが水が貰えなかった花壇の花の様に萎れてる。まあ本当に毎度の事なので気にしてないけど、探検に影響出るのは嫌だからパン一個ぐらいは恵んであげようかしら。
「・・・もうしょうがないわねえ。探検の日まではパン一個ぐらい分けてあげるわよ。探検に来られないってなったら私たちも大変だもの。」
それを聞いた途端、ミディは顔を日の光を得た花の様にパっと輝かせる。
これもまあいつもの事だ。
そしてパンが足りない、ワンモアパンプリーズ・・・、ツーモアパンプリーズ・・・と無限にパンを要求される。
こっちだって生活の為に食費切り詰めて、パンも必要な分だけって買ってるのに。
一体全体ミディはどういうお金の使い方をしてるのかしら?
「本当に済まない!有難う!リエラ!」
「はいはい。ちゃんと探検来てよね?魔法使いだって別の人に頼むの大変なんだから。」
誰でも簡単に魔法が使えるわけではなく、それ相応に才能がある人が魔法使いになる事が出来る。
私だって一時期魔法を勉強しようとしたけど、マナを空間から引き出す事が一番初めの大事な技術が出来なくって三日で辞めてしまった。
魔法が出来れば自動書記や毒の有無の確認、いろんな事務作業も楽に終わらせる事が出来るのに。
「それは勿論!いやあ助かるわ。」
「はいはいはい。じゃあ今日はもらった物持ってお引き取り下さいな。」
私はまだ瞳に涙を浮かばせながら落ち込むキャスカを横目に見つつ、ミディに向かってお引き取りを願う。
貴方がいると今はダメなのよ。
「あー、じゃあまた。六日後だな?あっちのいつもの入り口で落ち合おうな。」
ミディはそう言うとそそくさとウェルカムベルを鳴らして退散する。
「ほら、もうミディは居なくなったよ。思いっきり泣いてもいいんだよ。」
私はキャスカの小さな体を思いっきり抱きしめる。
彼女の泣きじゃくる声が店の外に出ないように。
「つらかったよね。頑張って作ったのにね。よしよし・・・。」
キャスカは言葉にならない嗚咽を私の胸の中にめいいっぱいに吐き出す。
涙と鼻水と涎も何もかも。今までずっと抱え込んでいる哀しみと一緒に。
「我慢したんだねえ。頑張ったんだもんね。」
こんな歳でたった一人っきりで店を構えなきゃいけないなんて、私なら確実に諦めていた。
何もかも捨てて逃げてた筈。
でもこの子はそれをやってる。前を向いて、自分を奮い立たせて。
「・・・今日は店じまいにしましょ。美味しいご飯作ってあげるからね。」
少しでもこの子の為に、何かしてあげたい。私はそう思う。
「・・・チーズフォンデュ・・・。」
「え?チーズフォンデュが食べたいの?」
キャスカは私の胸の中で静かに額を下にずらして肯定の意志を示す。
「うーん、分かった。チーズフォンデュにしましょ。ちょっと買い物と準備に時間かかるけども、それでいい?」
また同じように、額を摺りつけるように下にずらす。
「じゃあ、頑張っちゃおう。」
これでキャスカの機嫌が直るといいのだけれど。
でも、少しでも遠慮っていう言葉を覚えてほしいわ。今日来るときに売ってたチーズ四分の一個、確か五百シルバーぐらいしたのに。
四日分ぐらいの食費よ。四日分。懐が寒くなるなあ。
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探検へ続く。
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