第4話 悪役令嬢と過ごす学園生活(序)
──────昼休み。
なじみは、クラスメイトの女子たちと一緒にお昼ご飯を食べ、お喋りをして親睦を深めた後、残りの時間はアクーヤと語らう?ことにした。
別に二人はいつだって頭の中で話が出来る。だから特別に時間をとる必要はないのだけれど、なじみの脳の処理能力が上がっている訳ではないようで、他の人と話している時に頭の中で同時にアクーヤがあーだこーだ話をすると、なじみは「私は聖徳太子じゃないんだよー!!?」と言う気持ちになるし、うっかりアクーヤへの返事を、目の前の人にしてしまったりで相手におかしな顔をされてしまったりした。
だからと言って、アクーヤにちょっと黙ってなんて言った(思った)日には、途端に不機嫌になって怒りだし、余計に脳内がデスメタルとゴスペルを同時に大音量で流したみたいな大騒ぎになってしまった。
さすがにこれではまずいと思ったなじみはちょいちょいと、彼女と語らう時間を確保しようと心がけるようにしたのだった。
『この世界の娘たちは、何だか年不相応に幼い気がしますわね』
彼女の住んでいた世界と、なじみが暮らすこの世界では色々と常識も違っているらしい。なじみの学園生活をなじみの中から眺めながら色々と驚くことも多いようだった。
「そうかな?別に普通だと思うけど…」
『例えば…、お手洗いに行く際に、必ず学友同士で連れ添っていかなければいけないなんて…なんだか奇妙な習慣ですわ。小さな子供でもありませんのに』
「…確かにそこは…日本…あ、この世界のこの国以外の国の人から見ても変わってるらしいんだけど…。女の子同士って、何でも仲良しの子と一緒にやりたい…と言うか、むしろ一緒じゃないと仲良しじゃない!みたいな空気があるって言うのかな…」
女子として生きていくなら、何となくそういうのは小学生くらいから自然とそういうものだ…という感覚が身についてきてしまっているのだが、時折男子からもそんな風なことを言われたことがある気がする。
別に必ずしもそうしなくたってもちろん良いのだけど、そうすると変な子なんてレッテルを張られてしまったりするかも知れない。そんな風に考えたらついつい周りに合わせてしまうのだ。
『同調圧力ってやつかしら。下らないですわねぇ』
アクーヤの呆れたような言葉に、なじみは苦笑して肩をすくめることしか出来なかった。
「そ、それはそうとして…今は幼馴染くんとの仲をどう進展させていくかを考えなきゃなんだよ!!ね???」
『———そうですわね。今後のためにも貴女たちが具体的にどんな風な関係性だったのか等も参考にしたいですわね』
「関係性…関係性…。…そう言えば、私と幼馴染くん、1~2年生の時はクラスメイトや周りの人に"夫婦"なんて言われてからかわれたりはしてた…かな…」
『…過去の虚構の栄光にすがるのはお止めになった方がよろしくてよ…』
少しばかり憐れみの感情すら混じる声。
「そ、そうじゃなくて…!周りにはそう言う風に見られててもダメだったんだから、外堀を埋めてもダメなんだなぁって…」
『あら、失敗から学ぼうとしているのは良いことですわね。…でも、貴女の場合は外堀を埋めたけど駄目だった…ではなくて、外堀は埋まっていたのに本丸を攻め落とせなかった…だけではなくて?』
「うっ…」
すぐに言葉の刃で突き刺してくるの止めて貰えませんか?????となじみは無言で懇願の念を送るがアクーヤは無視した。
声に出して話さなくても、頭で考えただけでなじみの考えはアクーヤに伝わるようになっているので、懇願が聞こえなかった訳ではないだろう。
…という訳で彼女は確実に、意図的にシカトしている。
こうして自分の中にいるアクーヤと接していて、なじみは気が着いたことがあった。それは、なじみからすると"悲劇のヒロイン"であるとばかり考えていたアクーヤだったが、実は彼女はいわゆる"悪役令嬢"なのではないか…と言うことだ。
彼女に聞いた彼女自身の境遇は確かにそれっぽかったが、その手の分野にはあまり詳しくないなじみにはすぐに気がつけなかったのである。
昨今の流行りの小説では、悪役令嬢とは言っても、現代から転生した良識的な人物が中身に入ることで"悪役"ではなく、全うなサクセスストーリーを歩んでいくものが多く感じる。
しかし、このアクーヤは違う。本物の、つまり現代人の魂とすげ替えられる前の中身なのだ。高飛車で高慢で、他者への態度もきついし口も悪い。自分の思い通りにならないとすぐに怒ったり不機嫌になるし…。
基本的な言動が"悪役"なのである。(姿は見えないけど…)
…とは言え、なじみはアクーヤのことを怖いとは思うところはあるが、嫌いにはなれない
考えていることをズバッと言えてしまう一切の遠慮のなさだったり、一度は理不尽に陥れられて死んじゃったと言うのに、そのことで落ち込んだり暗くなったりもせずに前向きに自分のやるべきことをやろうと突き進める心の強さがある。
それは自分にはない・なかったもので、それを持っている彼女に憧れにも近い感情を抱いてしまったのも無理はなかったのかも知れない。
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