第7話
7話
「なあ、今日一緒に帰れる?」
りゅうちゃんの突然のその言葉に僕はすごくびっくりしてしまった。
「……え?」
あまりにもびっくりしたから、ちょっとマヌケな声を出してしまう。
「帰れないなら、別にいいけど……」
僕が驚きのあまり固まっていると、りゅうちゃんは少し俯いて小さく呟いた。
そんなりゅうちゃんを見て僕の心がチクリとし、
「そ……ッ、そんな事ないよ!」
慌ててそう言うと、りゅうちゃんは顔を上げて笑ってくれた。
「……ッ」
りゅうちゃんの顔が少しホッとしたような感じになっていたのを見た僕の心臓がドキンって音を立てた。
「ぼ、僕日誌届けてくるからちょっと待ってて!」
僕はそれを悟られたくなくて、りゅうちゃんから背を向けて教室を飛び出した。
曲がり角まで行って階段手前で壁に背を寄り掛からせた。
「はぁ〜……」
思わず出てしまった深い溜息。
ドクドクとうるさく高鳴っている心臓を落ち着かせる。
「……久しぶりに来たくせに」
りゅうちゃんに対する『皮肉』めいた言葉が自然に溢れた。
――いつ頃だったか、りゅうちゃんは学校に来なくなった。それは中学からではなく、多分小学校の六年生くらいからだったと思う。
それまではりゅうちゃんとは仲良くしていた、と僕は思う。こんな曖昧な言い方しか出来ないのは、りゅうちゃんの気持ちが分からないから。
久しぶりにりゅうちゃんの笑顔を見てホッとしたのもあるけど、それ以上に僕の胸は苦しくなった。それは、僕がりゅうちゃんに対して恋心を抱いているからーー
ーーそれに気付いたのは多分小学校の頃。最初は何となく気が合うなって思ってただけだったけど。
仲良くなるにつれてりゅうちゃんの言葉や行動のひとつひとつに心臓が飛び出しそうになるくらいドキドキして、ああこれ僕りゅうちゃんが好きなんだって気が付いたのは、女の子で唯一幼馴染の伊藤翼(いとうつばさ)に相談したから。
『直くん、それはりゅうちゃんに恋してるからだよ』
静かに話を聞いてくれた翼ちゃんは、静かにそう言ってくれた。
その言葉が、僕の胸のわだかまりを溶かしていくようで、その時に初めて僕はりゅうちゃんに恋してるんだって認識してしまったんだ。
認識した途端に、僕の気持ちを知らないりゅうちゃんに会うのがすごく怖くなった。りゅうちゃんに嫌われてしまうのが怖かった。
だからーー
りゅうちゃんが突然学校に来なくなった時は嫌われたのかとか思ったりもしたけど、ちょっと安心したのは確か。気持ちを知られて拒絶されるくらいなら理由もなく嫌われたほうがまだ気持ち的には楽だから。
でも久しぶりに会ったりゅうちゃんの顔を見れて正直なところすごく嬉しかった。それにまた【嫌われてはない】って言うのが分かったから。
ーーりゅうちゃん、学校来てくれたんだね。
恋心を知られる事より、りゅうちゃんが学校に来てくれた事に僕は喜びを感じてウキウキしながら日誌を職員室に届けて教室に戻ろうとした時、一階と二階に続く階段の途中にある場所で僕の行手はさえぎられた。
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