第6話

6話



 ――俺が、小学生後半から学校に行かなくなったのには理由があった。


 もちろん、直(なお)に対する自分の気持ちを知ってしまった事もそうだけど何より――


『俺と一緒にいて直に迷惑が掛かる』


 そうなるのが1番嫌だった。



 自慢になってしまうのは仕方がないが、俺の家は地元でも有名な金持ち一家で、周りに群がる奴らは大体『俺の金』目当てばかり。

 小学生中盤くらいからは『そんな事』子供心にも分かりきっていたから、直と『仲良く』なって、直に何らかの迷惑が掛かる事だけは避けたかった。



 だから――



 だから俺は直から距離を置いた。



 この事について俺は直に何も話していない。黙って側から去っていったのは悪いとは思うけど――



 だって、言えるかよ。


『俺と一緒にいるとお前に迷惑が掛かるからお前とは距離をおく』


 なんて。


 直に向かって直接言えるわけなかった。




 ――直と離れてみて、俺は改めて自分の気持ちに確信を持った。



 俺――直が好きだ。



『友達』とか、そんな生優しい類じゃなくて、もっとこう――何というか、胸が締め付けられるような――苦しい感じ。


 でも直の、あの柔らかい笑顔や声や仕草――全てに胸の高鳴りを覚えてドキドキしたり過呼吸のように息苦しくなったり。『俺、何かの病気か?』ってなるくらいに、胸と心が忙しくざわめいて――身体の一部が熱くなったりもした。



 この事を、両親が殆ど家にいないため、親代わりである執事の倉田に話したら、


『龍治坊ちゃんも、その様な歳になったのですね』


 なんて、にこやかな笑顔で頷かれた。




 いやいやいや。


 待て待て。



 俺、男!


 直も男!



 男が男に恋してるんだぞ!?



 いやちょっとは驚くとか、なんかもっとこう切羽詰まったリアクションとかしないの?!



 と、相談した俺自身が慌てていたら――



『恋愛に、歳も身分も性別も関係ありません』


 さらに笑顔で言われ、


『要は、どれだけ相手を想い遣れているかーーただそれだけです』



 そう締めくくられて俺は沈思黙考。


 寛容すぎるにも程があるだろ。



 だって、これってよくいう『同性愛』ってやつだろ?


 俺、『ホモ』ってことだろ?


 頭おかしいやつって思われても不思議じゃないレベルだろ、どう考えても。

 そんな事を悶々と考えていても、『直が好き』という事実は変わらなくて――






 ――久しぶりに会った直は、あの頃とあまり変わっていない様に感じた。

 

 俺から離れて行ってしまったから怒ってるのかと思ったりもしたが、話してみるとそんな事はなくて、それより懐かしさが先立って嬉しさでドキドキしたのも確か。



 新学期という事もあって学校は半日で終わった。


 直とは家も隣同士だから――


 ――あの頃のように、一緒に帰っても、いいかな?



 そう思い、密かな期待と共に俺はズカズカと直の席まで足を運び、


「なあ、今日一緒に帰れる?」


 当たり障りなく、直に聞いてみた。

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