第5話

5話



 ――【あの頃】はまだ良かったんだ。小学生の頃は、まだガキ((今もガキだけど…))だったから、そんなに気にはしていなかった。


 いや――寧ろ直(なお)に見透かされた時点で、((本音を突いてきた時点でって言った方がいいか))俺はもうあいつに『惚れて』しまったんだろうな。


 

 ――直を、恋愛感情として意識したのは、小学生を卒業する手前くらい。それまでは本当にガキとして漫画やゲームにと、直の家に入り浸っていた。


 

 頭良い癖に、漫画大好きだしゲームもめちゃくちゃ上手いし((対戦では勝てた事一回も無い…))、アニメも趣味があったし幼馴染だし家は隣だし、そんなんもう仲良くなるなって言うのが無理だった。



 でも――いつだったか、他のクラスに言われた事がきっかけで、俺は直から離れた。



『お前ら、仲良すぎだろ。デキてんじゃねーの?』




 ――今思えば、そいつからしたら悪意はなく、ただの揶揄(からか)いだったんだろうが、当時小学生の俺には、衝撃的な一言だった。


 そしてまた――俺自身の奥に疼く感情に気付いた瞬間でもあった。



 それに気付いたら、直に対して自分が悪い事をしているようで――それを直が知ってしまったら嫌われそうで――


 ――怖かった。



 直を失うのが。


 直に嫌われるのが。






「学級代表ってそんなもんだよ」


「ふーん、そう」


 軽く言ってのける直に、俺も軽く返した。


 

 それからは特に話す事もなく((と言うか、自分の感情を知ってしまったから直に後ろめたさを感じていた))、早くこの場から離れたくて鞄を持ち教室から出て行こうとした途端、



「…え? りゅうちゃん帰っちゃうの?!」


 背後から直の悲鳴にも似た声が聞こえ、俺は思わず足を止めてしまった。



 とりあえず取り繕うように、「…あー…と」口の中で言葉を濁しつつ踵を返すと、振り返った勢いで直の目の前まで言って、

「…間違えた、だけ」

 一言告げ、逃げるように自分のあてがわれた席に腰掛けた。


 直は何か言いたげで、しばらく俺の方を見ていたが、俺は気まずさからかずっと窓の外に目を向けていた。


 ――静かな溜息が漏れ、直もまた自分の席へと着いたようだった。

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