第3話

3話


 遡(さかのぼ)ること二年前――当時中学生だった俺たち。


 俺は名は神藤龍治(しんどうりゅうじ)。

 

 俺の家はまあいわゆる『金持ち』ってやつで、世界有数財閥の神藤家の次男である。こういう自己紹介はあまり好きじゃないが事実だから仕方がない。


 幼少時の『英才教育(えいさいきょういく)』なるものに飽きた俺は、小学から荒れに荒れた。


 両親は仕事で忙しく顔さえ殆ど見たことがないし、上に歳の離れた兄姉がいるが、そいつらともあまり顔を合わせた事がない。


 金は自由に使えたので、小学から俺は金に物を言わせて『仲間』を作ってきた。今思えば最低だな。


『俺の金』にしか興味のない奴らの中で、幼馴染である、新川直往(あらかわなおゆき)だけは違った。




「――おい、お前。オレの子分になれ!」

 当時から『お金』でしか人の気を引けない事を知った俺は直にそう言ったことがある。


 そうすると直はキョトンとして、「『子分』じゃなく『友達』だよね?」笑顔で返してきた。

「ー…ッ!」

 俺はその言葉が衝撃的だったのを今でも覚えている。




 ――そう。俺は『友達』が欲しかった。


 金や物で釣られる『偽の友』ではなく、『本当の俺』を見てくれる『親友』が欲しかった。


 家柄が家柄だけに俺は寂しかった。『家族』と呼べる家族らしいものもなく、自由に使える『金』だけあっても『心』は潤わない。そんな俺のやり場のない虚しさを一瞬で見抜いたのが、不覚にも幼馴染の直だった。


 

 そこからは直の家【丁度隣のマンションだった】に入り浸りになった。小学校に一緒に行って一緒に帰り、そのまま直の家でゲーム三昧。直の両親もそんな俺の境遇を知ってか知らずか優しかった。


 それでも――


 中学に入ると俺は学校に行かなくなった。『金』にたかるハイエナ共が鬱陶しくなったからだった。だったら独りでいたほうがマシだった。



「あ、りゅうちゃん。今日は学校来たんだね」


 中学二年の初日――


 何となく早起きして珍しく朝から学校に来て教室に入れば、早速コイツがいた。ニッコリと前と変わらない笑顔を向けられる。それが少し眩しくて俺は視線をわざと外した。


「…帰る」

 なんか気まずくなった俺は一言言うと踵を返すが、

「なんで? 折角来たのに。」

 直の言葉で立ち止まる。



「お前、なんでいんの?」


「え? 何か学級代表になっちゃって――」


 ああそっか。コイツ昔から頭良かったもんな。小学の時もクラス委員とかなんかやってた気がする。そんな『頭のいい』幼馴染を見れば、何やら無数ある書類を並べられた生徒が使う机に配って回っている。



 完全に雑用じゃねーか。

 

 それをやらされている直を見て何故か俺は腹が立ったので――


 荷物(中には何も入っていない学生鞄)を下ろして、


「おい、それ半分寄越せ」

 少し乱暴だったが、直が抱えていた書類を奪ってやった。

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