第401話 マーティが入ったドアの中 ①

 

 最初にドアに入ったマーティは、石でできた通路をひたすら奥へと進んでいた。

 カツーン、カツーンと足音が響き、両側の壁には、等間隔に付いた石灯篭いしとうろうのような形のランプが奥まで続いている。


「ずいぶんと先が長いな」と言った途端、彼の姿が通路から消えた。


「……イッテーッ」したたかにお尻を打つけてしまったらしい。

「一体、何が起きたんだ?」見上げると、小さく通路の天井が見える。「……落とし穴? なんでこんな所に落とし穴があるんだ?」


 さすがに落ちる角度が悪いと致命傷になりかねないことを配慮してか、穴の底には大量のわらが敷いてあるが、それでも、尻もちをついたときの衝撃は大きい。


「ったく、ギックリ腰になったらちゃんと治してくれるのか? 腰は男の命なんだぞ」


 めいっぱい打つけたお尻を擦りながら立ち上がると「やってくれるな」高さは五メートルくらいあるだろうか。到底、手の届く高さではない。

「さて、どうしたものか」ため息を吐いたとき「大丈夫?」と、上から声を掛けられた。


 見上げると、女の子がのぞき込んでいる。


「こんなところで何してるんだ?」

「何って、ここは私たちの遊び場だから」

「遊び場? こんなところが?」

「そうだよ」

「こんな危ない仕掛けがあるところしか、遊ぶ場所がないのか?」

「そうでもないけど」

「なら、危ないからよそで遊べ」


「でも、私が来なかったら、お兄ちゃん、そこから出られなかったよ」

「……そう言われてみればそうだな。この穴を元に戻す方法を知ってるのか?」

「うん。お兄ちゃんの体重が掛かってるかぎり、戻らないよ」


「なるほど。そういう仕掛けか。そうなると、仕掛けが作動するスイッチでも踏んだか?」

「そのとおり! よくわかったね。でも、仕掛けがわかっても出られないよ。どうするの?」

「出るに決まってるだろう。時間がないのに、いつまでもこんなところにいられるか」


 マーティはポケットから小さな円柱形の金属の棒を取りだすと「離れてろ!」と声を掛け、女の子の姿が見えなくなると、上に向けて棒のスイッチを押す。

 すると、テグスが付いた円柱形の頭が通路の天井にくっ付き、またスイッチを押すとテグスが巻き取られて、マーティの体が穴から出てくる。


「お兄ちゃん、すごいものを持ってるんだね」穴の横に立っている女の子が、興味津々の顔をする。

「何が起こるかわからないから、必要最低限のものは身に付けてきた」円柱形の棒をポケットにしまい「ここは危険だから、よそで遊べ」再度注意すると「一人なのか?」他に子供の姿が見えない。

「これからみんな来るよ」


「この通路には、ほかにも仕掛けがあるのか?」

「ううん、ここだけだよ」

「……そうか。ここの仕掛けが動くスイッチはどこにあるんだ?」


「あそこ」ライトグレーの石の通路の仕掛けの手前に、一つだけ真っ黒な石が填め込まれている。

「あの黒い石がスイッチなのか?」

「そうだよ」

(そういえば、周りばかり気にしてたな)足元を見ていなかったので反省する。


「それにしても、なんでこんな所に落とし穴があるんだ? 危ないだろう?」

「これは警告なんだって」

「警告? なにに対しての警告なんだ?」

「それは、先に行けばわかるよ」


「……そうか。とにかく助かった。礼を言う」声を掛けると、痛いお尻を擦りながら通路を奥へと歩きだす。

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