第390話 余計なことをしてきたもの ①

 

 最後のロイが行ってから三十分が過ぎた頃『みんな大丈夫かなぁ?』シュールが心配そうに呟く。『どのくらいで戻ってくるんだろう?』

『それはわかりません』

『どうして?』

『彼らはそれぞれの故郷へ戻ったんですよ』


『もしかしたら、帰ってこないかもしれないってこと?』

『その可能性もある、ということです』

『これは、みんなを試してるのか』


『誰か一人でも戻ってこなければ三枚の鍵が揃うことはないので、ここから先に進むことができません』

『みんなが持ってくる物が、鍵を手に入れるために必要なのか』

『そうです』


 シュールが黙り込むので『心配ですか?』

『当たり前じゃない!』

『それは、戻ってこない人がいるかもしれないからですか?』

『戻ってこない人なんかいないよ!』

『では、何を心配してるんですか?』

『私が心配してるのは、余計なことをしてくるんじゃないかってことだよ!』

『余計なこと?』


『マーティは、独立戦争で焼け野原になった故郷がどのくらい元に戻ったか、見て回ってアルバスとセージに状況を聞いてくると思うし、アニスは、みんながお気に入りの、香りが付いた紅茶がなくなっちゃったから、あちこち走り回って掻き集めてくるだろうし、バーネットは、果物とクミン叔母さん手作りのお菓子だろうな。ロイとマーティがメチャクチャ誉めてたから。ロイは、ロイは……とにかく、余計なことしないで早く戻ってきなさい!』



『やっぱり何かしてる』


 あれから三時間が経った。


『待ってる身になってみろ!』シュールが怒鳴ったとき、小さく足音が響いてきた。

『誰か戻ってきた!』

 足音がだんだんと大きくなってくる。

『誰?』


「ただいま!」

『アニス! お帰り!』


 シュールの予想どおり、彼女は大きな紙袋を三つ持って、息を切らして戻ってきた。

「アアッ! 重かった!」ドサッと紙袋を床に置いて座りこむ。


『そんなにたくさん紅茶を持ってきたの?』

「紅茶、だけ、じゃない。ゴーツリー、おじさん、アザラシ、肉、持っていけ、包んで、くれた。精がつく、みんな、食べさせて、あげろって」

『ああ、あの肉か』

「でも、重くって」真っ赤になった両手をパタパタと振る。


『家には戻らなかったの?』

「……ええ。時間、なかった」

『そうなんだ』

「いいの。誰も、いない、家、戻っても、寂しい、から。それに、ゴーツリー、おじさん、一時帰省、パーティ、言って、会社、早く、閉めて、近くの、ホテル、レストラン、貸し切って、大変だった」


『それだけ、アニスが戻ってきたことが嬉しかったんだよ』

「私も、嬉し、かった。おじさん、会えた、戻って、よかった、思う。私、には、帰り、待ってて、くれる、人、いる、わかった、から」

『ロイが言ったとおり、アニスは一人じゃなかったんだよ』

「……ええ」

『戻ってよかったね』


 アニスがホッとした顔をすると、ニゲラが声を掛けてきた。『話の途中に割り込んで申し訳ないのですが、指定したペンダントは持ってきましたか?』

「ええ、預かって、きた」首から下げている、二つの水龍のペンダントを出して見せる。

『本当に、向きが違うだけでソックリだね』

「私も、初めて、見た」


 アニスのペンダントの水龍は右を向いているが、預かってきたペンダントの水龍は左を向いている。


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