第382話 幻覚の影響 ③

 

「マーティは何を見たの?」バーネットが聞くと「俺は、親父とお袋に会った」

「マーティのそんな笑顔を見たのは初めてですよ。あなたも会えてよかったんですね?」

「……そうだな」


「一息入れましょう。コーヒーを入れるわ」バーネットが声を掛けると「先に機を安全なところへ移動させる。ロイ、破損状況を確認してくれ」マーティが偵察機の状態を確認する。

「うまく着陸したもんだ。大した損害はないよ」

「そうか。こっちも大丈夫そうだ。機を動かすからシートベルトをしてくれ」

 マーティはエンジンを掛けると偵察機を垂直に上げ、着陸できそうなスペースを見付けるとゆっくり降りる。


「では、隣の部屋へ移動するか」ロイが立ち上がると『ロイ、大丈夫?』シュールが心配そうに声を掛けてくるので(大丈夫だよ)


「二人とも、すっきりした顔をしてますね」イノンドが声を掛けてくるので「今まで、心の中でくすぶってたものがなくなった気分だ」

「僕もだよ」ペンペンと頬を叩くロイ。

「私は、目を逸らしてたことを痛烈に感じました。このままではいけないんだと、目が覚めましたよ」フウと息を吐く。


 隣の部屋へ移動してそれぞれ椅子に座ると、ホッと息を吐く。

 そこへ、バーネットがみんなのコーヒーを持ってきた。


「インスタントだけど、目が覚めるわよ」一人ずつカップを渡していく。

「バーネットは、見たことに対して、何か思い直したことがある?」カップを受け取るロイが聞くと「そうね……自分の運命を悔やんでないで、その中で、どうやって自分らしい生き方をしたらいいかって、思うようになったわ」

「いいことだね」

「いつまでも悲観的な考えじゃいけないものね」


「ここで見るものは、その人が心の中で迷ってることや悩んでること、悔やんでることが現れるんだな」マーティが分析を始めると「その事に対し、押し潰される者は自ら命を絶ち、そうでない者は生き残れるか」複雑な心境になるロイ。


「ここは、自分の人生をもう一度考えさせる所なのね」空いている椅子に座るバーネット。

「ここは人生の分岐点だな」窓の外を見るマーティ。

「幻想の星か。誰が名付けたんだろうな」ロイも窓の外を見る。



「今、みんな、一緒、いてくれる、から、私、生きて、いられる、思う」突然、アニスが驚くようなことを呟く。「私、死んで、しまおう、思った」

「ヤダッ! アニス! そんなこと言わないでよ!」慌ててバーネットが駆け寄る。


「私、とても、辛いこと、見た。思い、出したく、なかった、こと、見た」

「アニス……」

「感情、無くして、気味、わる、がられ、除け者、されて、苛め、られた、こと、見た」

「そう、あの時のことを見たの」


「その後、父や母、亡く、なって、もっと、ひどい、状態、とき、出て、きた。

 どこ、いても、一人、だった。

 その、状態、耐え、切れない、何度も、死んで、しまおう、思った。

 でも、私、には、大切、使命、あるから、果たす、まで、頑張ろう、自分に、言い、聞かせ、生きて、きた」


「生きててくれてよかった」向かいに座る彼女の手を握ると「……ロイ」涙目を向ける。

「今は僕たちと一緒だから、そんな辛い目には二度と遭わないよ」

『そうだよアニス! 死にたいだなんで言わないでよ!』涙声になるシュール。


「ご両親は、あなた一人を残したことを、さぞかし悔やんだでしょうね。

 でも、ご両親は、あなたに幸せになってほしいと思ってるはずですよ。

 だから、死のうだなんで考えるのは、ご両親を悲しませることになります。

 いいですね? これからは、そんな事を考えたらいけませんよ。

 辛い思いをした分、必ず良いことがあります。

 幸せを体験しないで死んでしまうのは、もったいないですよ」


「そうよ、アニス。私たちは今までとても苦しい思いをしてきたわ。だからその分、幸せになる権利があるわ。そう思うでしょう?」

「……うん、そう思う」涙を拭き、笑顔を見せる。

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