第381話 幻覚の影響 ②

 

「大丈夫ですか?」ロイが振り返って声を掛けると「ええ、なんとか」まだボーッとしている。

「カーリーとは誰ですか?」

「エッ!」ビックリした顔を向けるので「しきりに謝ってましたよ」すると苦笑して「そうですか。聞かれてしまいましたか」肩を落とす。


「僕が最後まで正気でいましたから」

「ということは皆さん、それぞれ見たんですか?」

「ああ」マーティが答えると「そうですか」ため息を吐き「カーリーとは、妻の名前ですよ」

「そうなんですか」

「管理局に入って、駆け出しのころ結婚しましたから、彼女にはずいぶんと寂しい思いをさせてきました」

「……大変だったんですね」


 その時、アニスとバーネットが気付いて動きだす。


「二人とも大丈夫か?」マーティが声を掛けると「ええ」ボォッとした頭を押さえるアニス。

「体が痛いわ」腕を撫でるバーネット。

「ヤダッ、顔、グシャグシャ」アニスが慌てて涙を拭くと「あれが幻覚なの?」ボサボサになった髪を整えるバーネット。


「強烈でしたね。とても幻覚とは思えませんでしたよ」首を横に振るイノンド。

「インパクトが強過ぎるな」頭を押さえるマーティに「大丈夫?」バーネットが声を掛けると「ああ、大丈夫だ」

「もしかしたら、ここで行方不明になってる人達は、自ら命を絶ってしまってるかもしれないわね」

「それは十分に考えられるな」


「私も、帰ってから、あんな辛いことが待ってるのかと思ったら……」

「バーネット?」マーティが心配して声を掛けると「大丈夫よ。みんながいてくれるから」

「オアシスにいたときのことを見たのか?」

「あそこにいたときの、辛いことを見たわ。知識不足で呆気なく命を落としてしまう人達や、管理が不十分で、病気になって亡くなってしまう動植物を」

「……そうか」


「ロイ、大丈夫? 顔色が良くないわ」バーネットが声を掛けると「ああ、大丈夫だよ」

「ロイは何を見たんですか?」イノンドに聞かれて黙り込むと「失礼。聞いてはいけないことですね」

「いえ、先に聞いたのは僕ですから」

「話したくなければ、話さなくていいんですよ」

「母と会いました」


「そうですか。元気な姿で現れてくれましたか?」

「……ベッドに、横になってました」

「ベッドに?」

「身体が弱くて、僕を産んでからは、いつも、横に、なってましたから……」

「……そう、なんですか」

「そのまま、回復することなく、亡くなりました」


「……それは、さぞ辛かったでしょう」黙り込むロイに「そのお母さんは、なんと言っておられたのですか?」

「……立派に、なったと、誉めて、くれました……」涙ぐむロイの肩をたたくマーティ。

「そうですか。立派になったあなたに会えて、お母さんはさぞかし喜ばれたことでしょうね」ロイの心情を察し「辛いことを乗り越えて、頑張った甲斐がありましたね。努力はいつか、必ず報われます。あなたのような息子を持てて、お母さんは幸せですね」


「母も、そう言ってくれました」

「そうですか。よかったですね」

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