第380話 幻覚の影響 ①

 

「そうか……ロイも、お袋さんを亡くしてたんだったな」


「……とても華奢きゃしゃな人だったよ。

 僕は母さんの笑顔が好きだったから、笑ってほしくて、いつもおかしなことをしてた。

 身体が弱かったのに無理に僕を産んで、いつも横になってた。

 僕ができたとき、親父は産むことに反対したそうだけど、跡取りは必要だと言って聞かなかったそうだ。

 でも、それが原因で、五歳のとき、亡くなった……」


「……そうだったのか」

「でも、言いたかったことが言えて、なんだかホッとしたよ」

「なんて言ったんだ?」

「……母さんの子供でよかったって」首から下げているロケットを開き「母さんだよ」マーティに立体映像を見せる。


「かわいい人だな。ああ、ロイの髪の色はお袋さんゆずりなのか」

「このロケットは、母さんがいつも身に付けてたものなんだ」

「形見か。お袋さんによく似てる」

「……親父にも、よく言われるよ」


「俺のお袋も見せてやるよ」上着の内ポケットからパスケースを取り出すと、中の映像を見せる。

「優しそうな人だな」

「とても優しかった。いつも笑顔を絶やさない人だった」

「フフッ、笑った顔がお袋さんソックリだ」

「……そうか?」笑みを浮かべ「息子はお袋に似るというからな」


「そうだな。ところで、マーティが見たのはどんな場面だったんだ?」と聞くと俯き「親父もお袋も若くて、俺は子供に戻ってて、三人で楽しく食事をしてるんだ。食べ終わるとお袋が立ち上がり、親父に俺のことを頼むと言って、どこかへ行こうとするんだ。俺が追いかけると手を取り、これからは過去に縛られず、前を向いて、幸せを掴めと言われたところで目が覚めた」


「いいこと言ってくれたな」

「……そうだな」

「僕も、幸せになれと言われたよ」

「そうか」


 気持ちが落ち着くと「シュール? シュール!」

『……アッ』

「気が付いたか?」

『ロイ、母様は?』

「そうか。シュールも母親を見たんだったな」

『アッ!』

「シュールが最初に見るとは思わなかったよ」

『あれが幻覚なんだ』


「強烈だったな」頭を抱えるマーティ。

『母様、悲しそうな顔してた』

「……そうか」

『母様に会いたい』

「もう少しの辛抱だよ」

『うん。頑張れって言ってくれた。でも、会いたい』


「シュールは、小さい頃に母親と別れたんだっけ?」

『……うん』

「でも、僕たちがいるから、寂しくないよな?」

『うん、大丈夫。ロイ、どうしたの? 泣いてるの?』

「ああ、大丈夫だよ」


『ロイは何を見たの? 悲しいことを見たの?』

「僕も、母親に会ったよ」

『そうなんだ。お母さんに会えたんだ』


「イタタタタッ」気付いたイノンドが腕をぶつけたらしく、左ひじを押さえる。

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