第379話 幻覚 ②

 

“覚えててくれたの?”

「……ウソだ。これは幻覚だ」

“こっちへ来て顔を見せて” 両手を差しだすので「ダメだ! 母さんはいない!」振り払おうと首を振る。

“……ロイ”


「こっちに来るな!」

“母さんね、小さなあなたを残していくのが辛かった……”

「ア……」

“こっちに来て顔を見せて”

「……母さん」

“さあ”

「ダメだ! これは幻覚なんだ!」顔を逸らして目をつむる。

“ロイ……”


 少しすると声が聞こえなくなったので目を開けると、ベッドに横になっている姿に変わっていた。


「母さん!」ベッド脇に駆け寄ると “傍にいてあげられなくて、ごめんなさいね” と言うので首を横に振り、差し出された手を握る。


“お父様の言うこと、ちゃんと聞いてる?”

「ああ、聞いてるよ」

“そう” ロイのほほを撫でる。

「母さん……」


”フフッ、あなたから「母さん」と呼ばれる日が来るなんて”

「さすがに、ママじゃおかしいよ」

“そうね。あんなに小さかったのに、こんなに立派になって。母さん、とても嬉しいわ”

「約束だったろう? 父さんのように立派になれって。僕、頑張ったんだよ」


“まあ、覚えててくれたの?”

「当たり前だよ。母さんとの約束だから」

“ありがとう。お父様は、元気?”

「ああ、元気だよ」

“幸せに、暮してる?”

「……母さんの写真を、いつも持ち歩いてるよ。だから、何も心配しなくていいよ」


“……そう。ロイ、もう一つ、約束してくれる?”

「何?」

“素敵な人と結婚して、幸せになること”

「それは……」

“それが、母さんのもう一つのお願いよ”

「……母さん」


“顔をよく見せて。忘れないように”

「今なら、母さんの病気を治せるよ」

“私のことは、いいのよ”

「ダメだよ」


“これからは、自分の幸せを考えなさい”

「ダメだよ。本当は、母さんがいなくてとても寂しかったんだ」

“ロイ……”

「ずっと傍にいてほしかった」

“……ごめんね”


「だから、どこにも行かないで」

“私は、あなたの傍に、いつもいるわ”

「母さん」

“ロイ、幸せになるのよ”

「ダメだよ」

“いいわね? 約束よ”

「母さん」


“あなたのような息子を持てて、嬉しいわ”

「僕も、母さんの子供でよかった」

“……ありがとう” ニッコリ笑う顔がスーッと消えていく。

「母さん!」



 ふと目が覚めると、偵察機が森の中に突っ込んでいた。

 周りを見ると、気を失っているが、みんな席に座っている。


 ホッと息を吐き「あれが幻覚?」涙がこぼれ落ちる。「母さん……」手には、まだ温もりが残っていた。


「……ン?」操縦席のマーティが目を覚ました。

「大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ」頭を押さえながら「ここはどこだ?」と言うので、ロイが前方スクリーンに映る鬱蒼うっそうとした森を見ると「どうやら、幻想の星の森の中らしい」

「そうか。着いたのか」まぶしいらしく、目を細める。


「マーティは、何を見たんだ?」

「……久しぶりに、親父とお袋の顔を見た」俯き「ロイは?」と聞き返す。

「僕は、母さんと会ったよ」彼の涙を見て「辛い、場面だったのか?」

「イヤ。大きくなった僕を見て、喜んでた」

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