第八章 幻想の星

第378話 幻覚 ①

 

 出発日の午前九時半前。

「エル、あとのことを頼むよ」

 中型の偵察機に乗っているロイがモニター越しに話し掛けると “気を付けてよ” 心配そうな顔がモニターに映る。


「僕たちが強運なのを知ってるだろう。余計な心配は無用だよ」

“僕が心配してるのは、トラブルメーカーを発揮しないで戻ってこれるかだよ”

「それは保証できないな。ダブルでいるから」

“だから心配なんだよ”

「ハハハ……じゃあ、四、五日で戻る予定だから」通信を切るとレジーナ・マリス号から出る。


 幻想の星まで約三時間。ワープを一回こなす。


「あれが幻想の星ですか」副操縦席のロイの後ろに座っているイノンドが、前方スクリーンを見る。

 薄いグレーのころもをまとっているようにユラユラとモヤがただよい、うっすらと星が見えているが、どの位の大きさなのかわからない。


「ちょっとゆがんで見えない?」操縦席のマーティの後ろに座るバーネットが目を細めると「時空の狭間にあるというんだ。ゆがんで見えて当然だろう」マーティがシールドのボタンを押す。


「何が、見える、かしら?」バーネットとイノンドの間に座っているアニスが不安そうに呟くので「嫌なことじゃないといいわね」そう言うバーネットも不安になってくる。

「気持ちをしっかり持っていれば大丈夫ですよ」緊張を和らげようと、明るく声を掛けるイノンド。


 しばらくするとモヤの中に入った。

 万一のことを考え、マーティが自動操縦に切り替える。


「真っ白、何も、見えない」スクリーンを見るアニス。

「そろそろお出ましかな?」ロイが気合を入れると「どんな風に見えるのかしらね」スクリーンをジッと見つめるバーネット。


 その時『母様だ』突然シュールが呟く。『母様が呼んでる』

(シュール!)


 みんなロイが身に着けている剣を見るが、イノンドがいるので声を掛けられない。

『ロイ、母様が呼んでる。行かなきゃ』

 剣を叩くと「どうしたんですか? 剣なんか叩いて」後ろにいるイノンドが気付くので「ああ、くせなんです」と答えるが(参ったな。シュールは見ないと思ってたのに)

『ロイ、母様が呼んでる』

 グッと剣を握ると「お父さん、お母さん」今度はアニスの様子がおかしくなった。


「アニス! しっかりして!」隣のバーネットが肩を揺らすと「イヤッ!」大声を出して耳を塞ぐ。

「アニス! しっかりしなさい!」


「カーリー。なぜお前がこんな所にいるんだ?」

「イノンド!」驚くバーネット。

「カーリー。頼むから泣かないでくれ」


「親父」

「マーティ!」声を掛けるロイ。

『ロイ! 母様が行っちゃう!』

「シュール! みんなしっかりしろ!」

「どうして、私ばかり、いじめるの!」

「アニス! 幻覚だ!」

「やめて! もうこんな所にいるのはウンザリよ!」

「バーネット! 惑わされるな!」


「私が悪かった。しかし仕事なんだ。わかってくれ」

「イノンド! これは幻覚なんだ! まどわされちゃダメだ!」

「お袋」

「マーティ! しっかりしろ!」


“ロイ”

「エッ?」不意に名前を呼ばれて声のするほうを見ると、ロイと同じロイヤルブルーの髪を長く伸ばした、二十代くらいの小柄な女性が立っていた。

“大きくなったわね”

「アッ……母さん?」

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