第377話 難関の情報

 

 そのイノンドから連絡がきたのは二日後だった。

 リビングにいると「お待たせしました」データを持って入ってくる。


「無理言ってすみません」いつもの席を勧めると「いいんですよ」椅子に座り、データが入っているメモリースティックをモニターに差し込んで、テーブル中央に3D画像を出すと、説明を始める。


「まず、星へ着陸できる時期が限られてます。月に二回、星の磁力が弱まるときがあって、その時にしか着陸できないそうです。

 そして、向かうときは必ずシールドを張ります。これは規則で決まってるので、シールド装置を搭載とうさいしていない宇宙船では行けません。

 航路のコードはこれから送ります」ロイとマーティへ送信する。


 次のデータを出す。


「次に星のことですが、現時点でわかってるのは、いつも厚い雲に覆われていることと、地上は奇妙な木が茂った密林で、森の奥に高い塔が建ってるそうです。

 この塔は調べられてないのでデータはありません。

 それと、奇妙な生物が確認されてます。鷹くらいの、銀色をしたしゃべる鳥がいるそうです。

 捕獲しようとしたそうですが、そんなもので捕まえられると思ってるのかと言われたそうです」


「まあ、すごい!」驚くアニス。

「そう言われると捕まえたくなるわね」興味を持つバーネット。

「出発は明後日になるな」手元のダブレットでデータに目を通すマーティ。

「出発許可は取ってあります。明後日の午前九時半です」

「イノンドの手際の良さには、本当に感服します」


「このくらいは当たり前ですよ。次に、星に着くまでに幻覚を見ることが確認されてます。星を取りまくモヤの中に入ると見るそうです」

「宇宙空間に存在するということは、モヤはガスかちりの類ですね?」


「ミクロ単位の宇宙屑くずの集まりだそうです。星の引力で吸い寄せられ、周りに漂ってるそうです。そのモヤも、星の周期によって濃くなったり薄くなったりするので、星が見えたりかすんだりするそうです」


「モヤの中に隠れた星ということが、名前の由来の一つなんでしょうね」

「そうらしいですね」

「宇宙屑ということであれば、モヤ自体は危険なものではないんだな?」マーティが確認すると「はい」と答える。


「他にわかってることはありますか?」ロイが先をうながすと「通信関係は使えないので、携帯は持っていっても使えません」

「では、無線を持っていきましょう」

「それも無理です。磁場が乱れているので使えません」

「それでは、バラバラになったとき、連絡を取り合えないじゃないですか」

「そうです。だから行方不明者が大勢いるんです」


「そういう理由もあるんですか。思った以上に厳しい状況ですね」

「そうです」

「他にどんなことがありますか?」

「以上です」


「これだけですか? 幻覚を見る原因とか、奇妙な木や植物などについて、調べられてないんですか?」

「木や植物は、調べるために幾つか持ち帰ろうとしたらしいんですが、モヤを抜けると、すべて枯れてしまうそうですよ」


「それは不思議ですね。もしかして、土壌か空気中に、特殊な成分が含まれてるのかもしれないな。それは分析されてるんですか?」

「いえ、まだです」

「なぜですか? 持ち出せないのなら、機械を持ち込めばいいことでしょう?」

「あの星へ行って、無事に戻ってこられたのは今までに数回しかなくて、とてもそこまでは調べられないそうです」


「数回? なぜですか?」

「幻覚を無事通過して星へ降りられたとしても、調べてる最中に次々と調査員が行方不明になってしまって、調査を打ち切らなければならない事態になってしまうからだそうです」

「奇妙な森のえさにでもなってしまったのかもな」マーティが冗談めかして言うと「その原因も解明されてません」


「モヤの中に入ったときに幻覚を見るのであれば、モヤが薄くなったときに行けば、見ることはないんじゃないですか?」ロイが考えながら聞くと「私の説明不足でしたね。モヤが晴れて星がハッキリ見えることはほとんどないそうです。モヤが薄くなるときは、星がボンヤリと見えるくらいなんだそうです」


「じゃあ、僕たちも幻覚を見る確率が高いということですね?」

「確実に見るでしょうね」

「確実にか」苦笑するマーティ。

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