第11話 事前準備 ②

 次の日。

 対策本部に泊ったロイは午前八時に起きると、乗りこむ戦闘艦の様子を見に、地下にあるドッグへ向かった。


「おはようございますロイ様。こちらの準備はとどこおりなく進んでます」作業員が声を掛けてくるので「ありがとう。引き続きお願いします」


「ロイ様! もう少しお休みになっててください!」作業員と話をしていたニネが走り寄ってきて「こちらのことはすべて手配してありますから」と言うので腕を引っぱって部屋の隅へ連れていき「こんな所で何してるんだ!」小声だが強い口調で聞くと「進行状況の確認です。カウスネクト様より指示されました」持っているファイルを見せる。


「父さんが? まだ体調が良くないのに何をやらせるんだ? ここは僕がやるから、部屋へ戻れ」

「いえ。私がお願いしてやらせてもらってるんです」


「なんだって? 余計ダメだろう」ニネの手から指示ファイルを取りあげ「部屋へ戻れ! ドクターの許可が出るまで外出禁止だ!」出入り口を指すと「……はい」渋々歩きだす後ろ姿を見送り、近くにいる作業員に「もし彼女が戻ってきたら追い返してくれ」と声を掛け「進行状況は都度、僕のタブレットに送信してくれ」すると「報告は、直接カウスネクト様へ連絡するよう指示されておりますが……」遠慮がちに答える。


「父さんに?」

「はい。それと、ロイ様がこちらへ来られたら、ご自分の準備に専念するよう言って追い返せ、との指示も受けております」

「なんだって?」ニネにしたことを自分がされるとは思いもしなかったので「やられた」

「では、お戻りになって、準備の続きをなさってください」


 今度はロイがドッグから追い出された。


 他のところへ行っても同じ指示が出ているだろうと予測して見回りをあきらめ、荷物をまとめるために郊外にある自宅へ戻った。


 お昼前に対策本部へ戻ると部屋に荷物をおき、お昼用のサンドイッチを持ってリサーチルームへ向かうと、目的地である影の森に関しての調査を始める。


 午後四時、父親に呼ばれて執務室へ向かうと「戦闘艦の準備が整ったそうだ」ソファに座り、ロイが持ってきたコーヒーカップを受けとる。


「あとは最終チェックだけです」

「気を付けてな」

「連絡は随時ずいじ入れますから」

「そうしてくれ」コーヒーを飲むと「航路は決めてあるのか?」

「時間がないので大まかにしか調べられませんでしたが、いくつか候補を出してあります」

「情報が少ないから、絞りこむのが難しいな」

「影の森の条件にあう、古い言い伝えが残ってるために人が足を踏み入れない、広大な森がある星をチェックしましたが、該当する星は見付かりませんでした。なので、まだ開発が進んでない星が集中してる星域から当たってみようと思ってます」


「やれやれ、気の遠くなるような話だな。まるで、砂漠の中に住む一匹のトカゲを探すようなものだ」

「そうですね。宇宙はあまりにも広すぎます」

「お前の強運を祈るよ」


「見付ける前に運が尽きないといいんですけど」ハハハと笑い合うと「それにしても、あんな大型戦闘艦で行けとは。ニネから聞いたときは驚いたが、お師匠様はその事に関して何か言っておられたか?」


「聞こうと思ったんですが話を切られてしまって。ただ、戦闘艦と聞いたとき、多少の危険をともなうことがわかってるんだろうとは思いました」

「何か、大きな禍に巻き込まれそうな感じがするな。他に何か言っておられたか?」

「なんでも、僕の人生を変える人物と会うことになるとおっしゃってました」

「ほう、お前の人生を変える人物か。どんな人なんだ? 詳しく聞いたか?」

「いいえ。それも聞けませんでした」

「……そうか」残念そうに残りのコーヒーを飲むと腕時計を見て「そろそろ出発の時間だぞ」


「はい。では行ってきます」

「くれぐれも無茶はしないようにな。嬉しい報告を待ってるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る