第10話 事前準備 ①
地下駐車場に車をおいてセキュリティゲートを通り、エレベーターホールへ行くと「お帰りなさいませ」ニネが待合所のソファから立ち上がる。
「持ってたのか?」青白い顔を見て「無理するなと父さんに言われてるだろう」
「こんな大事なときに、休んでなんかいられません」
「体調を治すほうが先だろう。部屋へ戻れ」エレベーターのボタンを押し、ニネを押しこむと「あの、カウスネクト様から託を預かってます。お帰りになったら執務室へ来るように、とのことです」
「父さんも起きてるのか? 困った人だな。わかった。ありがとう」
「では、お先に失礼します」
「ああ、お休み」ニネを見送ると、隣のエレベーターで執務室へ向かう。
ドア横に付いているインターフォンを押し「僕です」と言うとドアが開くので、中に入ると奥の執務室へいく。
カウスネクトは執務机でタブレットの書類に目を通していた。
「休んでなかったんですか?」
「ニネから事情を聞いてね。明日出発だろう? お前はいろいろと準備があるだろうから、他の手配をしておこうと思ってね」
書類は出発に関しての手配書だった。
「そのくらいできますから」
「最新鋭の大型戦闘艦を動かすために、どのくらいの手配が必要か知ってるか?」
「それは……」
「幸い試運転する予定で準備を進めてたから、それを本運転に切り替えるだけで済んだ」タブレットのデータを上書き保存すると机上の呼びだしボタンを押し、秘書が出ると「例の書類にサインしたから、内容を確認して各部署へ回してくれ」返事を聞くと、タブレットの電源を切って背もたれに寄り掛かる。
「父さん、無理しないでください」
「大丈夫だ。それより、旅に出ることになるとニネから聞いたときは驚いたよ」席を立つとソファに移動し、向かい合って座ると「急な出発になりました」
「長旅になるらしいな」
「そのようですね」
「こっちのことは心配しなくていい。近隣の系星が、星ごとに住民を受け入れてくれることになった。私たち政府関係者には宇宙管理局が居住ステーションを貸してくれることになってね。解決するまで、しばらくは宇宙暮らしだ」
「そうですか。なるべく早く戻ってこれるように努力します」
「焦らなくていい。無理せず、無事に戻ってこい」
「はい。気を付けます」
「それと、先ほど宇宙管理局の薬学局の人達が見えて、例のウイルスのことを調べてたんだが、やはり新種で、即効性を持ってる危険なものだと言ってたよ」
「まったく、どこのどいつがあんなものを造ったんだ?」
「こんな短期間でワクチンを作れたのは奇跡だとも言ってたよ」
「それは、不幸中の幸いですか」
「そうだな。とにかく、特別調査チームがきて、徹底的に調べるそうだ」
「犯人捜査のほうはどうなってるんですか?」
「こちらは、宇宙警察局が捜査チームを発足して協力してくれることになった。近いうちに捜査員を何名か派遣すると連絡がきてる」
「そうですか。早く逮捕してもらいたいですね」
「ところで、お師匠様の話はどうだった?」
「実は」ニネが話してくれた口伝は本当だったこと。アミークスと呼ばれる人物は実在するが、存在を明るみに出してはいけないこと。お師匠様にもらった浮遊能力のことを話し「この剣を一緒に持っていくよう言われました」テーブルに置くと「これは見事な剣だ。こんな細工は見たことがない」手を伸ばすので慌てて止め「この剣は持ち主を選ぶんだそうです」
「選ぶ? どういうことだ?」
「お師匠様の話では、この剣は意思を持ってるらしいんです。そして、持つ者を選ぶそうです」
「では、選ばれなかった者が持つとどうなるんだ?」
「わかりません。拒まれたとき、どうなるか聞かなかったので。でも、もしここで父さんに何かあったら、大変なことになります」
「……わかった。残念だが仕方ない」ロイが剣を取って身に着けるのを見て「お前は選ばれたということか?」
「そうらしいです」
「そうか。まあ、前進してるんだ。良しとしよう」
「では、これから準備を始めるので、部屋に戻ります」
執務室から出ると自分の部屋に戻った。
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