第8話 金青 (こんじょう) の剣
「さて、ロイ様にお渡ししないといけないものができましたよ」
お師匠様は立ち上がると部屋の右側にある小部屋の前へいき、ドアに刻まれている幾何学模様の中央に手を置くと呪文らしき言葉を唱え、少しすると、ドアノブと反対側の右側の位置に別のノブが出てきた。
ドアを開けるとその部屋は狭く、中央に一本の剣が立て掛けてあり、お師匠様はその剣を持ってくるとテーブルに置く。
灯りに照らされたその剣は、見事な彫刻が施された青い鞘に納まっている。
「まあまあ、ロイ様の髪の色によく似ていますね」
「これはすごい。これほどの剣は今まで見たことがありません。きっと由緒ある品なのでしょうね」
「この剣は、あの方からお預かりしたものなんですよ」
「預かった?」
「あの方のところから戻るとき、こうおっしゃられたんですよ」
『再び我の元へ来ることになろう。その時は、この剣を持参するがよい』
「ということは、また何かが起こると、その人は予言したんですか?」
「そうなんですよ」
「どんな事が起こるかまでは、教えてもらえなかったんですか?」
「未来は
「具体的にはわからない、ということですか?」
「そうですね」
「とにかく、その人に会ってきます。入り口となる影の森はどこにあるんですか?」
「わかりません」
「エッ、わからない? どうしてですか? 影の森に行かれたんですよね?」
「もちろん参りましたよ。ですが、先ほども申し上げたとおり、その存在を明るみ出してはいけない方なのですよ。なので、場所の記憶を消されてしまったんですよ」
「いや、理由はわかりますけど、なにも記憶を消すことはないじゃないですか。それでは、来いと言っておきながら場所を教えないのと同じですよ」
「入り口まで行く道は一つではないんですよ」
「……どういう意味ですか?」
「私たちが辿った道ではない他の道から行くことになる、ということですよ」
「どういうことですか? お師匠様たちは、口伝に書かれてあるとおりに行かれたんですよね?」
「何れわかるときが来るでしょう。さて、これから私の予言をお話ししましょうね」
「お師匠様」
「ロイ様にはロイ様の行き方があると申しているのですよ」
「僕の行き方ですか?」
「そうですよ。では、予言をお話しするので、よく聞いてくださいね」
「あ、ちょっと待ってください」内ポケットから携帯を取りだし、録音ボタンを押すと「お願いします」
「まず、出発は明日の夕方。
「どのくらいの期間になるでしょうか」
「さあ、それはお答えできませんね。予言者といえど、死後のことはわかりませんからね」
「死後って、どういう意味ですか?」
「ロイ様とお会いできるのが、今日が最後かもしれない、ということですよ」
「ちょっと待ってください。いきなりそんなこと言わないでください」
「私の命は持ってあと四・五年でしょう。それ以上の旅だとしかわからないのですよ」
「そんな……」
「こればかりは運命ですからね。仕方ありませんよ」言葉をなくすロイに「そんな顔をなさってはいけませんよ。これから大事な旅が始まるのですからね」
「大事、ですか?」
「そうですよ。ロイ様はこの旅でいろんな事をご経験されるでしょうね。そして、人生を大きく変える人物とお会いするでしょうね」
「僕の人生を変える人物ですか?」
「そうですよ。さあ、私の予言はここまでですよ。お戻りになって出発の準備をなさい。対策本部ではすでに取り掛かっているでしょう」テーブルに置いてある剣を差しだすので「お師匠様、まだお聞きしたいことがあるんですが」
「早くお戻りなさいね」言葉を遮り、さらに剣を差し出すので「……わかりました」聞くのを諦めて剣を受け取る。
「その剣は肌身離さず、いつも身に着けておいてくださいね」
「でも、大事な剣ですから、どこかに保管しておいたほうがいいのではないですか?」
「その剣は意思を持ってるんですよ。そして、持ち主を選ぶんですよ」
「この剣が意思を持ってる? どういう意味ですか?」
「持ち主と認めた人にしか、持つことができないんですよ」
「はあ。では、僕は持ち主と認められた、ということですか?」
「そうですよ」満足そうに笑う。
「よくわからないなあ」困惑するロイに「この剣は、不思議な力で持つ者を守るんですよ。ですから、肌身離さずと申し上げたんですよ」
「不思議な力ですか」
「さあ、玄関までお送りしますよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます