第7話 予言者の修行場 ③

「お師匠様、その人物のことは決して口外しないと約束します。ですから教えてください!」

 真剣に聞く表情を見てどうしたものかと困惑するが「ここまで来たら、話さないといけませんね」お師匠様は笑いを引っこめ、真剣な顔をするので「約束は必ず守ります」

「……わかりました」お茶を飲むと「私がお話できることはそんなにありませんよ」

「お願いします」

「何がお知りになりたいですかね?」

「そうですね。どんな人物なんですか?」

「あの方は、私たちにいろんな能力を授けてくださったんですよ」

「そうなんですか。それで、あの口伝にあるように、その人物に助けてもらった人はいるんですか?」

「もちろんおりますよ」

「本当ですか? その人は、どんな事で、どのように助けてもらったんですか?」


「そうですね」お茶をゆっくり飲むと少し間をとり「その方は……その方はある系星の責任者でした。まだお若く、精力的に行動されていましたよ。

 ある年、大変な疫病が流行りましてね。なかなかワクチンが見付からず、大勢の人が犠牲になりましたよ。そして運悪く、その方も疫病に掛かってしまったのです。日に日にやせ細っていく中、大臣たちの不安は深くなっていきました。

 実は、その系星は独立したばかりで安定した生活が確保されていない状態だったので、責任者が亡くなればまた元の植民系星に戻ってしまいます。それだけは何としても避けなければなりません。

 しかし、いつできるかわからないワクチンを待ってる余裕はありませんでした。

 そこで、古文書から解決の糸口がないか探したところ、あの古い口伝を見付けたのです。

 信憑性を確認してる時間はなかったのですぐに有志を募り、入り口となる影の森を探しました。

 寝る間も惜しんで探したところ、ある有志がそれらしき森がある星を見付け、向かったところ、目的の鏡の泉の門に辿り着いたのです。

 彼らは門に入り、あの方にお会いすることができました。

 訪ねた事情を話すと、薄紫色の液体が入った小瓶と使用方法、その液体の調合方法が書かれたメモを渡されました。

 有志たちはその方の力で星に戻り、危篤状態になっていた責任者にその液体を飲ませ、最悪の事態を逃れることができたのです。

 その後、薬の効果が確認できたので大量に製造され、多くの命が救われることになりました」


「……そう、ですか。そんな事が、あったんですか」ロイは感慨深そうに呟くと、目を閉じてしばらく黙り「ところで、お師匠様はおいくつなんですか?」

「いきなりなんでしょうね。女性に年をお聞きになるんですかね?」

「あ、いえ、ちょっと聞きたくなりまして」

 お師匠様は質問の意図を計りかねて「なぜお聞きになるんですかね?」理由を訊ねると「だって、お師匠様は、その有志のお一人だったのでしょう?」


「エッ?」

「話し方が、お師匠様の体験談として話されているから」

「それは……」

「それに、話に出てきた若き責任者は、僕の、祖父、ですよね?」

 お師匠様の表情が変わるので「やっぱり」

「どうしてそう思われるのですかね?」

「父から、一世紀前の独立や疫病のことは聞いてます。疫病が流行ったときは、全星民の五分の一が亡くなる大事件だったと。そして、祖父を助けてくれた、表沙汰にできない人達がいることも」


「そうですか。お父上からお聞きになられていたんですね。そうですよ。私もその有志の一人でしたよ」

「祖父の命を救っていただき、ありがとうございました」立ち上がり、深々と頭を下げると「やめてください。そんな事をしてほしくてやったわけではないんですからね」

「いえ、祖父がいなければ、僕はおろか父も存在していないのですから」

「あの事は私たちの誇りでもあるんですよ。あの方のお力になれた、それだけで満足ですからね」

「お師匠様」

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