第4話 口伝 ②


 人数分のコーヒーを淹れて戻ってくると、ゆっくり飲んで気持ちを落ち着かせる。


「さて、対策案だが、ニネ、あの話をもう一度してくれないか?」

「はい。これは、修行を終えて一人前の予言者クイ・アド・ルーチェムとしてカウスネクト様専属になったとき、お師匠様からこの指輪と共にいただいた古い口伝の一つです」両手の中指にはめている薄紫色の宝石がついた指輪を見せる。


『我が力を受け継ぐ者よ。汝が災いに巻き込まれしとき、助け手を必要としたとき、我の元を訪れよ』


「我って誰のこと?」

「私たちの間ではアミークス、友と呼ばれています」

「友ね。で、続きは?」


『我れ住むところ、大地の精に守られし、影の森にある鏡の泉の門より入る。が、注意されたし。一角獣の目は見てならぬ。見たならば泡沫うたかたの世界に迷いこみ、永遠に幻想を彷徨さまようだろう』


「大地の精に守られた影の森に、鏡の泉の門と一角獣。忠告を守らなければ、泡沫の世界で永遠に彷徨うか」ロイは腕を組み「で、そのアミークスと呼ばれる人物に会えば、石化したものを元に戻す方法を教えてもらえるのか?」


「戻せるかどうかわかりませんが、何か知恵を授けていただけると思います」

「この話、どう思う?」

「そうですね……」少し考え「この口伝の信憑性しんぴょうせいはどのくらいあるんだ?」

「それは、かなり古いので、調べてみないと」

「そうか」再び考えると「他に手段がない今、可能性を信じてトライするべきでしょうね」

「私も同じ考えだ」同意を得られて満足そうに頷くと「そこでだ。この役をお前に頼みたい」


「僕ですか?」

「この話ができるのは今ここにいる三人だけだ。私はここを離れるわけにいかないし、ニネも体調を崩してる。そうなるとお前しかいないんだ」

「それはそうですけど……」

「ロイ様、無理なさらないでください。体力が戻ったら私がやりますから」

「いいよ。僕がやる。ニネには大事な任務があるだろう?」

「でも……」


 ロイは父親を見ると「まず、この口伝から調べてみます。ニネのお師匠様に聞けば何かわかると思うので、行ってきます」


 執務室から出ると腕時計を見る。


「午後八時半か。ちょっと遅いけど訪ねてみるか」

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