第3話 口伝 (くでん) ①
そんな中、ロイは対策本部に詰めているファルネス系の統治者である父親のカウスネクトに、執務室へくるよう呼び出されていた。
「実は、お前に頼みたいことがある」
対応に追われ、ほとんど睡眠を取っていないので顔に疲労の色が濃く見えるが、目は異様にギラギラしていた。
「父さん、少し仮眠を取ってください。このままでは倒れてしまいます」
「みんな寝ずに頑張ってるんだ。本部長たる私が一人、休むわけにいかない」
「だからこそ、トップが倒れるわけにいかないでしょう?」
「私のことはいい」手を挙げて言葉を遮り「それより話を聞いてくれ」
「……わかりました。話とはどんな事ですか?」
「良いことと悪いことがある」背もたれに寄り掛かると「良いことは、先ほどワクチンが完成したと報告がきたことだ」
「本当ですか! 早速、全惑星に送って石化現象を止めましょう!」
「さっき手配したよ」息子の笑顔につられて笑みを浮かべるが、すぐ厳しい表情に戻り「悪いほうの話だが」と続ける。「ワクチンのおかげで石化現象を止めることはできるが、石化したものを元に戻すことは、今の技術では不可能という報告も、一緒に届いた」
「では、石化してしまった人達は、動植物や海は元に戻せないということですか?」
「研究者たちは解決へ向けて動きだしてるが、今の時点では不可能だそうだ」
「しかし、犯人は……犯人は元に戻す方法を知ってる可能性がありますよね?」
「それはある。今、警察局が全精力を傾けて追ってるが、この混乱だ、捕らえるのは不可能に近いだろう」
「他に、何か他の方法はないんですか?」すると、なぜか困惑した顔をするので「父さん?」
「確証はないのだが、案はある」
「どんな事ですか?」
「ニネ、入ってきなさい」声を掛けると、隣の部屋から十七・八歳くらいの少女が入ってきた。
「そこに座りなさい」部屋の中央に置いてあるソファを指し、ロイと一緒に席を移す。
向かい合って座ると「ニネ、具合でも悪いのか? 顔色がよくないぞ」
「誰かが毒を飲ませたらしいんだ」
「なんだって! 誰がそんな事したんですか!」
「この事態を起こした犯人以外、考えられないだろう」
「すみません、私の不注意です」
「謝らなくていい。それより、大事に至らなくてよかった」
「なんでニネが毒を盛られないといけないんですか? まさか、誰かに正体を知られたんじゃ」
「それはないと思うのですが、わかりません」
「実は、ニネは今回の事態を前もって予言してたんだ。具体的ではないが、今回のフェスティバル中に大変なことが起こると」
「まさか、計画を邪魔されないように消しにかかったというんですか?」
「恐らくな」
「でも、ニネの正体を知らなければ、そんな事はしない……」困惑した顔を父親に向けると「そうだ。信じたくはないが、内部に、犯人に加勢した者がいる可能性が高い」
「外部から来た誰かの可能性もあるでしょう!」
「外部から来た者が、一事務員に注目する確率がどのくらいある? 受付ならまだしも、ニネは内務事務員なんだぞ」
「そう、ですよね」
カウスネクトは頭を抱え「危ないところだったんだ。もし、もう一口飲んでいたら致死量に達していただろうと、ドクターが言ってた」
「私も、薬物に対応できるよう免疫を付けているのですが、今回は新種の毒物らしく、適合するワクチンを見付けるのに時間が掛かったと、研究チームの方から聞きました」
「それで、毒を入れた人物の見当はついてるか?」
ニネは俯くと「わかりません。波紋がかかったように空気が揺れて、顔がハッキリ見えないんです。でも、私のコップに毒を入れる指だけは見えました」
「指だけ? ニネの力をもってしても、そこまでしかわからないか?」
「……はい、すみません」
「謝らなくていい。敵のほうが上手ということだ」
例の花火制作会社を捜査したところ、フェスティバルの数日前に花火を保管していた倉庫に何者かが忍び込んだ事件が起きていたが、何も盗られた痕跡がなかったため、不法侵入として処理されていた。
「一体、何者なんだ?」ロイが考え込むと「恐らく犯人はかなりの人数で動いてる。計画も綿密だ。裏で糸を引いてる黒幕は大物だろう」
「僕もそう思います。一系星を潰そうとしてるんですから、相当な金額を注げて、かなりの権力を持つ者でなければできないことです」
「問題は、黒幕の意図は何か? どうしてここを潰そうとしてるのか。そして、これから何をしようとしてるのかだ」
「ニネ、何かわからない?」
「……すみません。もう少し体力が戻れば、何かわかると思うんですが……」
「ああ、そうだった。無理しなくていいよ。わかったときに教えてくればいいから」
「……はい」
「では、そろそろ対応策について話そうか」話を進めるカウスネクトが「その前にコーヒーを入れてくれ」と言うのでニネが立ち上がろうとすると「いいよ。僕がやる」彼女を制し、ロイが隣接する給湯室へ向かう。
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