修羅の先

 王都から北へと続く道は、地面がでこぼことしており、悪路が向こうまで延々と続いていた。


 黒女の献身的な介護のおかげで、ようやく体調が戻った紗枝。

 ベルブのいるダーウィン町には戻らず、逆の道を往くことに決めた。

 まだ食べられそうなイモを布に包み、王城から皮の水袋を持ってきて、黒女と肩を並べて、遠くに見える緑の山々に目を細める。


「戻らなくていいのか?」


 相変わらず黒女には見えていないが、紗枝は幽霊と会話をしているという事にして、ヴィーダに返答した。


「わたしが戻っても仕方ないじゃない」


 紗枝は、度々父の言葉を思い出しては、己と向き合った。

 修羅道に生き、身も心も抜け出せなくなった事を自覚している。

 誰かを活かすことはできず、その術を知らない。


 ただ、殺法しかできない未熟者であれど、誰かのために剣を振るう事は、頭にぼんやりと漂っている。


 紗枝の心は、一時でも好いてくれた男の子のために尽くしたい、と気持ちが込み上げていた。


「当ててやろうか」

「何よ」


 黒女は独りで話す紗枝を一瞥し、背中を擦ってくる。

 まだ体調が悪いと勘違いしているのだろう。


「お前、……あいつらを故郷の連中と重ねているのだろう」

「……ふん」

「執着心の正体は、それか」


 擦り切れた袴を揺らし、紗枝は前に向かって歩き続ける。

 ヴィーダに言われて図星だったのか、以降紗枝は押し黙った。


 そして、紗枝は自身の目の先に、己が真に欲するものを定めた。

 武士ではないけど、己の心に従い、『死に場所』を荒れた世界の中で見つける。


 ただ死ぬのではなく、命を使って、尊い姉弟の未来を築こうと、心に決めたのである。


(接吻くらいは、……したかったなぁ)


 風に揺れる梢を眺め、紗枝は純粋な欲を心中で溢した。

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最強のヤンデレ女武者が、魔王側についたら 烏目 ヒツキ @hitsuki333

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